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ドイツ図書流通連盟、書籍ビジネスを支える業界団体【寄稿】

2018.01.29

 ドイツの書籍市場は堅調で、欧米の中では比較的多くの中小書店が営業を続けている。その背景には、業界のインフラを支える協力な業界団体が存在しているという。昨年、同地の業界団体を調査してきた出版デジタル機構の新名新代表取締役社長にその実情をレポートしてもらった(編集部)。

注目を集めるドイツの出版業界
出版デジタル機構・新名新代表取締役社長

 紙の雑誌およびコミック単行本の急激な売上減少によって、出版業界、とくに取次・書店といった流通業界では、今後の紙書籍流通をどのようにして維持するのか、という議論が真剣に交わされています。

 そうしたなか、数年前から関係者の注目を集めるようになったのが、ドイツの出版業界です。いまや紙書籍の売り上げにおいて人口の多い日本を上回り、それをこの15年間維持し続けていることが大きな理由かと思います。他にも、注文から24時間以内に書店に届くという書籍配送の速さ、資格を必要とする書店員の存在、「Tolino」に見られる電子書籍への対応、日本同様の拘束された書籍販売価格など、日本の出版関係者にとって気になるところが多くあります。

書誌情報整備可能にする業界団体の存在

 私はこうしたドイツの書籍ビジネスを支えている要因の一つが、充実した書誌情報システムにあると考えています。

 そこで私どもメディアドゥグループとしては、日本出版インフラセンター(JPO)の書誌情報システム「出版情報登録センター(JPRO)」の発展に全面的に協力しようと考え、昨年は2回にわたってこのドイツの出版業界を調査してきました。

 ドイツでは、書誌情報が出版業界団体の子会社によって一元的に管理されているのが特徴です。このあたりは、数年前に文化通信さんがJPOと共に現地で行った視察の報告にも記載されています。私はこの点がJPROのモデルになり得るのではないかと思い、業界団体の本部があるフランクフルトと、大手取次Libri(リブリ)社のあるハンブルクを訪問しました。

 しかしそこで明らかになったのは、こうした書誌情報管理を可能としているのが、ドイツ出版業界団体の組織、人材、運営に帰因するものだということでした。今回はこのドイツの出版業界団体をご紹介し、みなさまの参考にしていただければと思い筆をとりました。

業界全体で一つの団体

 ドイツ出版業界団体の最大の特徴は、業種ごとの組織に分かれていないことです。すなわち、出版社、書店、取次(物流会社も含む)が全体で一つの業界団体を構成しています。Bo(ウムラウト)senverein des Deutschen Buchhandels(BDB)というのがその名称で、直訳するとドイツ図書流通連盟といった意味になります。1825年にライプツィヒで設立され、現在はフランクフルトに本部が置かれています。

 ドイツは連邦制の国家であり、16ある州政府の権限が強いため、この団体にも九つの地方協会があります。それを束ねる全国協会だけでも約40名のスタッフを抱えているかなり大きな組織です。ちなみに一部地方には業種別の団体も存在するそうです。

 驚くべきはその組織率の高さです。定期的に刊行を継続している出版社1800社の95%、取次関係企業80社のすべて、およそ3000におよぶ書店もその90%がBDBに名を連ねています。

 企業規模に応じて最高7万ユーロ(約950万円)から最低でも500ユーロ(約6万5000円)と、日本の出版業界団体と比較してかなり高額な年間会費であるにもかかわらず、この組織率を誇っています。BDBはこの会費収入だけで、845万ユーロ(約11億4千万円!)に達する年間収入の61%を賄っています。

 ドイツの出版関係企業が、これだけの負担をしてまでBDBに参加しているのはなぜなのでしょう。

活動の中心は活発なロビーイング

 昨年インタビューしたBDBの専務理事ドクター・キーラ・ドレアーは、私の質問に対して次のように即答しました。

「参加各社は、出版業界としてのロビー活動を私たちに期待しているからです」

 さらに実例として、2017年にAmazonを相手にした二つの訴訟で勝利を収めたと語ってくれました。ひとつは日本でも問題となっていたいわゆる最恵国待遇条項を撤回させたこと、もうひとつはAppleとAmazonのオーディオブックにおける排他的独占を排除したことです。

 彼女自身も法律家ですが、この訴訟のために欧州の二つの法律事務所と契約し、訴訟を闘ったのだそうです。

 過去には、彼らのロビー活動によって、紙の書籍に適用されている価格拘束が電子書籍にも拡張されています。

 私が訪問した時も、連邦議会で審議中だった出版社に不利な法案に対する反対運動のさなかでした。これは、学術書に限って、製作部数の15パーセントを社会に無償で提供する義務を出版社に課すというものでした。

 もちろん、文学賞の主催、読書コンクールの開催など、文化的活動も活発に行っています。しかし、日本の出版業界団体との大きな違いは、この戦闘的と形容したいくらい活発なロビー活動にあります。BDBはこの活動だけでも、年間に1億円以上を投じています。

三つの子会社で収益事業

 そしてもう一つの日本との大きな差異は、収益事業に熱心なことです。こちらには大きく分けて次の三つがあります。

○フランクフルト・ブックフェア運営事業
○出版業界の人材を育成する教育事業
○書誌情報関連事業

 実はこの3事業は、BDBが出資しているそれぞれ個別の有限会社によって営まれています。

 ブックフェアはフランクフルターブッヒェメッセ社、書誌情報はエムファーヴェー社(mvb、直訳すると「書籍流通のマーケティングと出版サービス」というドイツ語の頭文字)、人材育成はメディアキャンパス・フランクフルト社が担っています。

 出資の構成はをご覧になるとお分かりのようにやや複雑ですが、基本的にはBDBが100%出資している企業だと考えてもいいでしょう。

 この3社はすべて営利企業なので、経営陣には収益を出すことが求められています。BDBからの支援を当てにするどころか、出資者であるBDBに配当をしなければなりません。

 みなさんよくご存じの世界最大と言われる「フランクフルト・ブックフェア」も、BDB傘下の企業によって運営され、収益を上げているのです。

 それどころかこの会社は、ニューヨーク、北京、モスクワ、ニューデリーに事務所を開設しており、海外事業展開の機会を窺っています。我々メディアドゥグループも熱心に接触を受けています。

 人材育成の「メディアキャンパス」(旧書籍業学校、日本で「NPO法人本の学校」のモデルになった)も事業としては分かりやすいでしょう。出版業全般にわたる職業訓練校です。

 ドイツではここの教育を終了した後、商工会議所の試験に合格しないと書店員の資格が得られないことは日本でも知られています。他にも、出版関連企業で社内セミナーを開催するなどして、収益を上げています。

業界統一の書誌情報整備

 mvbについて少し詳しく書きましょう。従業員数は120名、年間売上高1790万ユーロ(約24億円)、ドイツにおけるISBNの発行者でもあります。

 mvbの事業は基本的に書誌情報に関係するものですが、出版業界に関する情報誌を2誌発行しており、そのうちの1誌は何と創刊が1834年です。

 もちろん現在では事業の中心がデジタルに移行しており、1971年に稼働した彼らの書誌情報システム「VLB」には、2万1千の出版社が刊行した410万タイトルが登録されています。また、「VLB‐Tix」という注文機能を付加した電子カタログのサービスも提供しています。

 ドイツには他にも取次大手のリブリ社などが書誌情報システムを提供しているのですが、「VLB」には圧倒的に優位な点があります。

 ドイツの価格拘束法によって決められた定価は、このデータベースに登録されて初めて公式に認められるという点です。これも、mvbが強力な業界団体であるBDBの子会社だからこそ可能な荒業ではないでしょうか。

 mvbも海外進出には熱心です。すでにアメリカでは、データコンサルティング会社NPDから書籍の受発注業務部門を買収し、mvbUSが活動を開始しています。またブラジルでも、ドイツとほぼ同様の書誌情報事業を2017年6月に開始しており、すでに現地出版社の7割が参加しているそうです。

 帰国後の電話会議で、mvbのロナルド・シルト社長から、日本のJPRO事業に彼らが関与できる可能性があるかを尋ねられて驚きました。後に彼の前職がAmazonであったと知って、その旺盛な事業欲に納得したものです。

会員が介入しないよう子会社化

 さて、ドイツの出版業界、とくに公的な業界団体のBDBは、なぜこうした公的とも思える事業を自ら行わず、出資した営利企業に任せているのでしょうか。

 この疑問を率直にドクター・キーラ・ドレアーにぶつけたところ、すぐに明快な答えが返ってきました。

「BDBを構成する多くの会員企業が、その利害からブックフェアや書誌情報の内容に介入できないようにするためです。また、事業そのものの合理性や効率性も独立した企業にしておくほうが確保しやすいでしょう」

 出版業界を一体化した高い組織率と豊富な資金力に支えられた強力なロビー活動、傘下の営利企業によって独立採算のもと世界に拡大するブックフェア、書誌情報、人材育成などの公的事業……ドイツの出版事業を経済と文化の両面から下支えするBDBには圧倒される思いでした。

 そして国情の違いはあるものの、こうした業界団体を生み出したドイツの出版界にあって日本には無いものが何なのか、深く考えさせられた昨年でした。

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