光和コンピューターは2020年夏にセルフレジシステムをリリースしたが、これまでに書店6法人で42台が稼働。全国で230店舗を展開する株式会社くまざわ書店が21年2月に田町店(東京都港区)で導入したのを手始めに6店舗で導入。株式会社啓文社(広島県尾道市)は全店舗へのフルセルフ型レジ導入を進めている。
同社のセルフレジを導入している書店は、くまざわ書店と啓文社のほか、カメヤ宇土シティ店(熊本県宇土市)、青山ブックセンター本店(東京都渋谷区)、宮脇書店越谷店(埼玉県越谷市)、喜久屋書店(兵庫県神戸市)。ほかにも地域チェーン書店などから引き合いがあるという。
レジはシャープ製タッチパネルモニター付本体と、自動釣り銭機、レシート用プリンター、スキャナ(スロット型・ハンディ型)、クレジットカードや電子マネー(オプション)の決済端末で構成する。電子マネーはWAON、nanaco、楽天Edy、交通系などが利用可能で、すでに図書カードにも対応している。
同社セルフレジの特徴として、購入冊数を読み上げる機能や、顧客がレジを操作する中でブックカバーの要不要を選択できる機能などがある。
またレジ本体の向きを変えて、メニューを切り替えることで、顧客が商品のスキャニングから決済まですべてを行う「フルセルフ」、スキャニングなどを店員がサポートする「セミセルフ」、そしてすべての操作を店員が行う「有人レジ」としても利用できる。
くまざわ書店では、有人レジとセルフレジを組み合わせ、店員がサポートするセミセルフとして運用することで、効率化だけではなく接客が向上するという効果もあるという。一方、啓文社はすべての導入店舗で有人レジからフルセルフ型に切り替えている。
保守は1年365日の午前8時から23時まで、同社コールセンターからリモートで行うことができ、「大抵のトラブルは解決できます」と多田元晴取締役は説明する。
書店がセルフレジを導入するニーズや効果について多田取締役は、「昨今のニーズはやはり人件費抑制かと思います。例えば大型店舗の場合、7、8台のレジを7、8人で運用していたものが、セルフレジにすることによって1人で回せるようになる人件費抑制効果は絶大です。あわせて少し混み合ったときにヘルプがカウンターに入ることなく捌きたいというニーズもあります。1人で複数台のレジを見ることができるため、他のメンバーが仕事を中断してヘルプに入る必要がなくなるといった効果があるのです」と述べる。
そして、セルフレジ導入を検討する際にポイントになる点は目的をはっきりさせることだと多田取締役は指摘する。
「導入目的が人件費の抑制なのか効率のアップなのか、目的をはっきりしないと効果があがりにくいと思います。導入する前に目的を明確にする必要があるということを、導入を検討されている書店さんには説明しています」としている。
【導入事例1】
くまざわ書店田町店
スタッフと顧客のコミュニケーションが生まれている
2021年2月に光和コンピューターのセルフレジを導入したが、作業が効率化されたことに加えて、レジカウンターが縮少されたことで、スタッフと顧客との距離感が近づき、自ずからコミュニケーションが生まれているという。
同社は田町店のほか、これまでに蕨錦町店(埼玉県)、エキア北千住(東京都)、辻堂湘南モール店(神奈川県)、イーアス春日井店(愛知県)、津田沼店(千葉県)にセルフレジを導入している。半導体不足の影響で一時、導入がストップしたが、今後も「レジのリースアップやリニューアルなどのタイミングで店ごとに検討していきます」と熊沢宏専務取締役は積極的だ。
田町店は18年12月、東京都港区のJR田町駅からコンコースでつながるオフィスビル「田町ステーションタワーS」の4階商業エリアにオープン。売場面積は250坪。店内には書籍・雑誌と文具・雑貨を販売。隣接するスターバックスコーヒーとの間に仕切りがなく、ブック&カフェとなっているのが特徴だ。
同店がある芝浦地区はもともとオフィスや倉庫が多い地域だが、近年は再開発によってマンションが増えている。「田町ステーションタワーS」の1階にはスーパーマーケットのライフが入居しているため、日常の買い物に訪れる人も多い。最大のピークである15~16時頃にはそういう買い物客が数多く来店する。
小学生を中心とした子どもや親子連れの来店が多いため、22年に実施したリニューアルではコミックスと児童書の棚を各6本ずつ拡張し、学用品を中心とした文具売り場も拡大した。
店舗は森田健嗣店長と社員1人、アルバイト15人(常時3~4人)で運営。営業時間は9時~21時、休業日はビルが閉まる年末年始のみ。レジコーナーは1カ所で、当初のレジは光和コンピューターの有人レジ「KPOS」(シャープ製)3台だったが、セルフレジ2台を導入してからは、セルフ2台と有人1台で運用している。
接客を重視する同店では、セルフレジにも人を配置して、商品コードの読み込みからカバー掛け、袋詰めなどの作業は積極的に店員が行うようにしている。顧客には決済を任せるオペレーションだ。それでも慣れた顧客はだんだん手助けが不要になり、 いまは2台のセルフレジをほぼ1人で担当できるようになっている。
1台の有人レジ(スタッフレジ)は図書カードの販売やバーコードのない商品、配送希望などセルフでは決済できない場合と、セルフレジが混雑した場合に誘導している。
無料のブックカバーや紙製袋は専用の「セルフカウンター」でお客が自分でつけているが、「ブックカバーを自分でつけるお客様も多くなって、抵抗感はほとんどありません」と森田店長は述べる。
また、手提げ袋など有料の資材についてはバーコードを入れて清算時に合わせて購入できるようにした。
接客の質を変えるセルフレジの効用
森田店長はそうした効率化以上に「接客のスタイルが変わってきました」ということに手応えを感じている。
セルフレジでスタッフが顧客の横に立ってサポートしていると、レジカウンター越しとは違う距離感になる。「お客様の横に立つことで1対1の接客になります。ご要望やご質問にお答えしやすくなり、良い接客につなげることができると感じます」と話す。
実際に問い合わせが増えるなど顧客とのコミュニケーションが増えており、当初、ていねいな接客ができなくなると不安を持っていたスタッフから、「感じよく接することや、いろいろ気づいてご案内することが必要だという声が上がっています」と、森田店長は意識変化を実感している。
一見、人と人とのつながりを弱くするように見えるセルフレジも、使い方によっては、スタッフが本来の接客に集中するためのきっかけになるのかもしれない。
【導入事例2】
啓文社
全店にフルセルフレジ導入 年末シーズンにも力を発揮
尾道市を中心に書店を展開する啓文社は、全店でフルセルフレジの導入を進めているが、要員確保が難しい年末に効果を発揮するなど順調に稼働しているという。
同社は広島県に10店舗と岡山県に1店舗の書店を展開。日本出版販売(日販)のPOSを利用してきた7店舗で光和コンピューターのセルフレジを、TSUTAYAのPOSを利用している4店舗のうち2店舗でTSUTAYAのセルフレジを導入。残りの2店舗も今後セルフに切り替えていく計画だ。
昨年6月に最大規模の岡山本店(700坪)から導入を開始。3カ月間の動作確認を経て、9、10、11月の3カ月間で残りの日販POS店6店舗に導入した。
当初、現場からは有人レジを残さずにすべてセルフレジ化することに不安の声もあったが、「コロナ禍で対面が難しくなったことと、スーパーなどでセルフレジが普及してきたこともあり、フルセルフレジの導入を決めた」と、手塚淳三社長の決断ですべてセルフレジに切り替えた。
セルフにしてレジ増設
フルセルフにすると有人レジに比べて行列ができやすいため、各店舗ともそれまでの有人レジ台数より増やし、コミックス売り場に独立したレジコーナーがある3店舗は、コミック用のレジは防犯タグを外すためにスタッフが対応するセミセルフにした。
セミセルフではレジカウンター内の店員がスキャニングし、シュリンクパックを外すとともに防犯タグを回収。お客側を向いたモニターに金額が表示され、決済はお客側で行う。
岡山店の場合は、従来有人レジ4台だった中央レジコーナーをセルフレジ6台に、有人レジ1台だったコミックコーナーはセミセルフレジ1台にした。また、中央レジ6台のうち2台はキャッシュレス決済専用としている。現金以外の決済手段はそれまでクレジットカード、PayPay、d払い、auPAYのみだったが、このタイミングでほとんどの決済手段への対応も行った。
スタッフの研修は、岡山本店で稼働前に従業員がバックヤードで操作を体験。稼働後は各店舗の店長などが同店を訪れて操作方法などを体験した。また、オペレーションの流れや、現場で感じた課題と解決方法などをまとめたシートを作成し、全スタッフがネット上で共有できるようにしている。
セルフレジ導入の効果について、手塚社長は以下のようにコメントしている。
手塚社長「トラブルはほとんどない」
当初は現場に不安もあったようですが、昨年末に店長や社員に話を聞いたところ、「お世辞抜きに、やってもらって助かった」と言われました。
パートで働く主婦は扶養控除の関係で年末になると出勤日を減らさざるを得ないことが多くなるため、急に人員のシフトが厳しくなり、レジ要員が確保できなくなることがあります。
しかし、フルセルフレジにしたことで、レジには1人配置すればよくなり、清算のお客様がいないときはその1人もほかの業務ができるようになりました。12月のギリギリの人数でシフトを回さざるを得ない時期にも、セルフレジにしたことで対応できました。
また、夜遅くはアルバイトが1人でレジを担当することもあります。急にお客様が集中するとき、これまでだと列ができでお待たせしていましたが、セルフレジにすることで1人の担当者で対応してもお待たせすることがなくなりました。
スーパーやドラッグストア、ホームセンターなどではセルフレジ導入が進んでいるため、お客様は慣れているので、店舗で使い方がわからないといったトラブルはほとんどありません。
今後、PubteXが進めているRFIDが現実に普及すれば、コミックコーナーのセルフレジ化など、さらに効率的になるのではと期待しています。