平安堂、新たなプロフィットセンター構築へ

2009年6月25日

 1927年の創業から80年以上の歴史を誇る平安堂(長野市)は、今年3月、平野稔会長の次男で34歳の平野伸二郎氏が社長に就任した。新刊と古書の併売や、他の書店とのアライアンスなど積極的に事業を展開する平野新社長と、かつて書店のフランチャイズシステムやPOSレジをいち早く導入し、“須坂構想”を提唱した平野会長に話を聞いた。(近藤晃治)

 平野社長はアメリカに留学し卒業後はヘイスティング社に4年間勤務した。ヘイスティング社は北米西部、中西部を中心に複合型書店153店舗を展開。書籍、CD、DVD、テレビゲーム、レンタル、その他雑貨を扱い、中古の併売も行っており、中古の扱いを始めた平安堂が指向する業態とマッチしている。

 両社の比較について平野社長は「質的には平安堂が凌駕しています」と話す。ヘイスティング社はシステマティックだが、従業員のクオーリティーは平安堂が高いと見ている。

 出版業界は長期低落傾向にあるが、同社も95年の売上高210億円をピークに、直近は100億円まで減少。この間、トーハンからの取引変更で沖縄地区の30億円を譲った経緯も含まれている。

 回復策としては「これまで当社がやった来たように、書籍の回りに他のプロフィットセンター(収益源)を付加していくことです。当社には80年以上の歴史、ブランド力、信頼感があります」と話す。

 その内容は「かつて始めたCD、DVDのレンタルは成熟し始めていますから、もう一つの新しいプロフィットセンターが古書です。これが進化するとブックスビヨンドアライアンス(BBA)に繋がります」と書店間連携も視野に入れている。

 新刊と古書の併売も、長野店で準備している。さらに、新規商材として知的雑貨の導入を同店で取り入れ、収益部門に育て上げるという。

 「書店だけで生き残れるのは難しい。当社がここまで生き残れたのは、いろいろなことをやってきたからです」と分析する。

 出版社への注文は、「正味の引き下げを要望したい。アメリカでは書店マージンが35~40%はあります。何よりも社員の働きに報いたい」と理由を話す。

 売上額が最高時から半減したことについて、平野 瑛児前社長は「単に半減したのではなくて、筋肉質になったともいえます」と解説。売上高210億円で利益1億円余から、売上高100億円でも2億円の利益を目指す。「経常利益率は2%、一般書店の水準の倍になります」と社長も。

 出版業界には失望の極み(平野会長)

 平野稔会長は一昨年に刊行した『平安堂八十年の歩み』について、「父(正祐)の時代から含めていろいろとありました」と。最大の戦いは名古屋勢とのスタンド戦争。「好んでやったのではないが、経済的にも出費が重なった苦しい戦いだった。攻めてこられれば戦う。そうしないと地方書店は潰れる」と回顧。

 フランチャイズ方式の導入も一世風靡したが「自己資本の肥大化は早晩行き詰まります」と考えて着手した。販売部数によってマージンが増えないのも理由の一つ。

 ジャパン・ブック・センター(JBC、須坂構想)が頓挫したことについては、「ハブ空港の発想が日本にはないのと同じ。日本人は農耕民族、グローバルな発想が出来ない」、「構想推進出版団体の中心に実力者いなかった」と分析。

 その平野会長は、「50年間の出版業界には失望の極」と断言。正味、労働条件の格差など、百年河清を待つ状況。「後継者にも本屋をやらせたくない。やらせたいのはブックス&ビヨンド、本屋の先にあるものを、捜しだしてやらせたい」という。

 田中康夫知事を誕生させた経験から、書店のトップは他の業種と違い、地域の安心と信頼のシンボルであることを実感したという。新しいプロジェクトも立ち上がるか。「読者がレジで会長に宜しくと言っていく。この点に関してはつくづく本屋で良かったと思う」と述べた。