中国で絵本市場が急速に拡大している。なかでもポプラ社の現地法人・蒲蒲蘭文化発展有限公司は、2016年に年間売上高が前年の倍に増加。所得水準の上昇、ネット通販の普及などが主な要因だが、中国でも屈指といわれる同社の営業力が市場を切り拓き、成長を加速させているようだ。 中国ではいまも外国資本に出版事業は開放されていないが、ポプラ社は00年にいち早く北京事務所を開設した。 03年に書籍の小売・卸売が外資に開放されたことを受け、04年に北京蒲蒲蘭文化発展有限公司を設立、北京での外資による小売免許登録第1号となり、翌年に小売書店「蒲蒲蘭絵本館」を開店。さらに09年には卸売免許を取得した。 出版事業も04年に6点の絵本を刊行したのを手始めに、ポプラ社の作品、日本の他の児童書出版社や欧米の作品、さらにはオリジナル絵本など、これまでに約500点を刊行してきた。 同社発足当初は中国に絵本市場がなく、苦戦を強いられたという。しかし、00年代後半に大手ネット書店が成長し、それまで書店が力を入れてこなかった児童書や絵本の販売に注力したことで全国に拡大したという。 「我々が参入した頃は中国に『絵本』を表す言葉がなかったが、いまではポピュラーな言葉になった」とポプラ社で海外事業と製作を担当し蒲蒲蘭の董事長を務める永盛史雄事業開発局長は述べる。 10年代になると中国の絵本市場は3油井噴(油田が吹き出す様)と呼ばれる急成長を遂げ、17年には書籍市場803億元(約1兆4000億円)の25%ほどを児童書が占めるまでになった。 蒲蒲蘭の売上高も近年倍々のペースで急成長。16年には1億元(約17億円)を超え、中国絵本3大ブランドのひとつにまでになっている。 成長の理由について永盛局長は、「肌で感じるほど経済が成長していることと、ネットインフラが成長したことが大きい」と述べる。 中国では書籍販売で当当網、京東、アマゾンという3社をはじめとしたネット販売のシェアが大きい。蒲蒲蘭もこの3社が売り上げの5割ほどを占める。 こうしたネット通販業者が児童書に力を入れたことで、80年代生まれの若い親に絵本を浸透させたとみられる。 ただ、蒲蒲蘭が市場の成長率を上回る伸びを示している背景には、「地道な営業活動が実った」(永盛董事長は)という面がある。 中国の出版社は多くが国営で、あまり熱心な営業活動をしてこなかったという中、蒲蒲蘭は卸売免許を取得したことで、日本で培った営業手法を使い、各地の卸業者やネット書店などへの営業活動を積極的に展開する。 現在、蒲蒲蘭は北京、上海、広州に拠点を置くが、正社員約85人のうち35人が営業を担う。これほどの割合の営業組織を持つ中国の出版社はほとんどなく、同社の営業力は中国でトップレベルだという。 さらに、蒲蒲蘭には「市場部」というプロモーションを中心としたマーケティングを担当する部署があり、3拠点10人体制でイベントやネットでのプロモーションを行っている。 この部署は、もともと絵本文化を普及させようと設置したが、読み聞かせといったイベントはもちろんのこと、日本の絵本作家のツアーを展開したり、著者インタビューをリアルタイムに配信するなどネットを使った販売促進を積極的に展開。こうしたプロモーション活動によってブランドが浸透し、販売促進にもつながった。 ポプラ社と蒲蒲蘭は、こうした中国で築いたインフラを活用し、中国市場で日本の他出版社の絵本を広める活動を本格化させる。 「編集には日本人スタッフもいて、製作面でも設備、技術ともに優れた現地印刷会社と協力関係にある。日本で出すのと同じ感覚で本を出して販売することができる」と、永盛董事長は日本の出版社への向けて呼びかけを強めていく考えだ。 ポプラ社の中国事業テーマに文化通信フォーラム 文化通信社は2月27日16時から、東京・千代田区の文化産業信用組合会議室で、第5回文化通信フォーラム「中国に広がる日本の絵本――13年目迎えるポプラ社の中国事業」を開催する。 2005年から中国で出版活動を拡大してきたポプラ社の現地法人・北京蒲蒲蘭文化発展有限公司董事・総経理(COO)・石川郁子氏が、中国絵本市場の可能性や、同社のビジネススキームなどを話す。 参加料は5000円(別途懇親会あり・会費5000円)。問い合わせ電話03(3812)7466。