TSUTAYA、書籍すべてで返品率制限買い切りを提案

2019年6月21日

昨年オープンしたTSUTAYA BOOKSTORE岡山駅前

 カルチュアコンビニエンス・クラブ(CCC)グループでTSUTAYAや蔦屋書店を全国に展開する㈱TSUTAYAは、小売の粗利益率アップを目的に、出版社に返品枠を設けた買い切りという新たな仕入方法の提案を開始した。雑誌とコミックスを除いた全商品を対象とし、CCCグループの出版社を手始めに出版社との交渉を始める。

 

 TSUTAYAの直営店とフランチャイズ加盟店の出版物販売額は1347億円と国内書店としてはトップクラス。

 

 これまで店舗に配本されていた新刊書籍も、本部が事前に発注して各店舗に配本する。物流と商流は従来通り日本出版販売との合弁会社MPDが担うが、仕入交渉から仕入数の決定まで、TSUTAYAの本部が行うことになる。返品を抑えることによって生まれる利益を店舗に還元し、フランチャイズに加盟する店舗の粗利益率の改善を目指す。

 

 対象とするのはコミックスを除く書籍、ムックの全商品。返品率や粗利還元率については出版社、商品ごとに交渉して設定する。

 

 鎌浦慎一郎取締役BOOKカンパニー社長は本紙取材に対して、「出版物をあまねく広くお届けすることと、返品抑制のバランスを考えると、業界で40%ほどに達する返品率を平均的には20%まで引き下げるのが良いと考えている。いずれにしても出版社にとって従来より不利益になる提案はしない」と述べる。

 

全商品を本部が発注

 

 同社の本部(商品部)が新刊・追加全商品の発注数と各店舗への配本数を決める。出版社と設定した率以上の返品が発生しても、同社が代金分のペナルティーを支払うことで買い切る形にする。

 

同社は商品部の仕入担当者を増強し、出版社とは新刊部数決定前に商談を行って仕入数を決める。そのために、新刊であっても想定顧客から類似商品を選定して需要を予測し、店舗の立地、顧客クラスタなどのデータから配本数を決め、追加は減退値を設定して店舗ごとの必要数を自動的に算出するプラットフォームを構築した。

 

 一方、買い切りのリスクは本部が負うことで、各店舗と本部の間の条件は当面買い切りとはしないが、店頭でのハンディターミナルでの返品管理などを徹底することで、店舗での返品抑制も進める。

 

 また、返品抑制の取り組みを進めるのと同時に、良好な売れ行きが見込まれる新刊を大量に仕入れて店頭で仕掛けたり、Tカードなどデータベースを活用した棚在庫の適正化、品切れ品の独自復刊による既刊書の発掘といった売上拡大のための施策も実施することで、返品を抑制しつつ販売量を増加することを目指す。

 

徳間書店と先行実施

 

 出版社との交渉は、まず同社が属するカルチュア・コンビニエンス・クラブのグルーブ出版社を皮切りにスタートする。説明会では昨年先行してこの取り組みを実施した徳間書店の事例を報告した。

 

 徳間書店とTSUTAYAは2018年度下期に全商品を対象に新方式での発注・配本を実施。この結果、それ以前に比べて返品率が9ポイント低下し、売り上げは34%増加したという。

 

TBNは昨期4・4%増

 

 この仕入方式は同社が6月5日に出版社160社を招いて開いた説明会で提案した。説明会では、書店が新刊を事前に発注することで返品率が10%程度にとどまっているドイツの書籍流通モデルを例に、同社が各出版社と返品率の枠を設定することで出版社に利益をもたらし、その利益の一部を同社とFC店舗に還元することで店舗の粗利を改善、それを原資にさらに出店を進めることで、出版社の利益が拡大するという循環モデルを示した。

 

 このほか、同社の現状についても報告。2018年度のTSUTAYA BOOK NETWORK(TBN)の売上高は1347億円、前期比4・4%増。既存店のみは0・5%減だが、下期は100%を超えたという。

 

 店舗は、ブックカフェ業態を中心にTSUTAYA BOOKSTOREなど30店舗を出店。オートバックスへのTSUTAYA BOOKSTORE東雲、島忠へのTSUTAYA BOOKSTOREホームズ新山下店といったアライアンス企業との新業態店舗も展開。また、蔦屋書店は直営の名古屋みなと、FCの江別、高知を出店し、このブランドでの店舗は16店舗になった。

 

求められる流通サイドの粗利益改善

 

 日本の書店が書籍の販売で得る粗利益率は20%前後で、欧米など諸外国に比べて低い。しかも書籍の価格も海外に比べて安いため、書店が書籍の販売だけで経営を維持することが難しい。

 

 これまで書店や取次の経営を支えてきた雑誌の販売量が急減したことで、流通側からは書籍の価格値上げと粗利益率の増加が求められている。

 

 すでにアマゾンジャパンや紀伊國屋書店は、出版社との直接取引によって、一部で40%程度の粗利益率を実現し、大手取次の日本出版販売やトーハンなども、「マーケットイン型」供給への移行によって、返品率の低減と、小売の粗利益率増額を目指す改革を推し進めている。

 

 取引改善委員会は、返品運賃の値上げが進む中、北海道組合が2017年12月に表紙返品の実施推進を提案したことから、18年4月に返品現地処理研究賞委員会を立ち上げ、北海道地区での現地処理実現に向けて活動を始めたことを報告した。