白桃書房から『激動の時代のコンテンツビジネス・サバイバルガイド』という本が出た。アメリカのカーネギーメロン大学の2人の研究者が、テレビ、映画、出版といったエンターテインメント業界で、デジタル技術がどのようなインパクトを与えつつあるのかを、具体的なエピソードと市場データの分析などを通してわかりやすく示している。
(文=文化通信社・星野)
特に注目すべきは、解説の背景にある事実の示し方だ。著者である研究者たち(研究チーム)は、大手の映画会社やレコード会社、出版社などエンターテインメント企業から、実際の顧客データや販売データの提供を受け、統計の手法を使って学術的に分析した結果を示している。
そして、現在進行している変化の影響を分析するために、どのような統計分析が有効なのかという研究手法についても解説している。まさにしっかりしたエビデンス(根拠)を伴った現状分析なのである。そして、産業と研究機関の連携で、根拠となる事実の分析がなされていることに感心する。
日本の出版関係者にも他人事とはいえないデジタル技術の進展に伴う「海賊版の影響」についても、こうした調査分析を通して解説している。
そこでは、音楽業界における無料音楽共有サービス「ナップスター」の影響や、インドにおける映画製作といった事例をもとに、その影響の有無や、日本でも「漫画村」問題で議論の対象となったサイト遮断といった対策の有効性などを分析している。
何事においても、将来に向けて戦略を立てるためには、現状や変化を知るために数字をもとにすることが多い。
しかし、数字というものは見方によってどのように受け取ることもできる。数字の解釈が間違っていたら、戦略は的外れなものとなりかねない。
例えば、90年代の中後半に新古書店が増加したとき、出版業界では中古書店の増加曲線と出版販売額の減少曲線が相関しているように見えたことから、出版物の売り上げ不振の主な原因を中古書流通に求める見方が強まった。
しかし、今から振り返って、その後は中古書店が増えず、最大手のブックオフが中古書以外の事業に注力するようになっても、出版販売額の低迷が続いているのを見れば、その影響が限定的であったことは明らかだ。
もし、出版市場回復のために中古書店排除の政策を推し進めていたとしたら、見当違いの活動に人やお金を費やすことになっていただろう。
こうした見方は、最近の図書館貸し出し問題や、海賊版問題などでも散見されるところである。
いま出版業界では、電子海賊版の問題をはじめとしたコンテンツのデジタル流通、消費税の軽減税率、図書館や学校図書館のあり方を含めた読書環境整備といった課題が多い。
こうした課題は出版業界の内側だけで解決策を見いだすことは難しい。官公庁をはじめ、社会全体に訴えかけなければならない問題ばかりだ。
そんなとき、いかに多くの人々が納得できる根拠を示せるのかが、政策を実現するためのカギになる。また、その政策を立案するためにも、正しい現状認識が大切である。
この本に触発されるのは、今の日本の出版業界にとっても、しっかりしたデータや根拠を持った分析、そして、それに基づいた政策を立案する必要があるからだ。
是非ともこの本を通して、多くの業界人や政策立案者、そしてエンターテインメントに興味を持つ人々が、そうした認識を共有できることを望みたい。
□四六判/272㌻/本体2500円