NewsPicks 新しいビジネスモデル提案へ、新書籍レーベル10月に新刊2点で創刊

2019年7月26日

編集長に就任した井上慎平氏

 

 新しい出版レーベル「NewsPicks(ニューズピックス)パブリッシング(NPP)」の立ち上げを発表している㈱ニューズピックスは、今年10月上旬に書籍2点を発売して本格的な出版事業を開始する。


 編集長に就任した井上慎平氏は新レーベル立ち上げの狙いを「NewsPicksが提供する学びの生態系を本でさらに強化する」と説明する。


 NewsPicksは経済の情報や知識をソーシャルメディア、イベント、オンライン講座、雑誌などの形で提供しているが、そうした「学び」に欠かせないストックメディアとして書籍を位置づけている。また、「経済」に「文化」を加えることで、未来を構想して実現していく総合的な知を提供する狙いがある。


 レーベルコンセプトは「希望を灯す」。「生まれたときから不況で、ずっと閉塞感を感じてきた。仕組みがうまくいっていない中での1位を目指しても消耗戦になるだけ。こうすれば全員にとってポジティブな影響があるよね、といった新たな価値観や仕組みが今必要とされている。そんな言論を希望と呼び、その発信源になりたい」と井上編集長。


 10月の創刊時には佐々木紀彦『編集思考』、宇田川元一『他者と働く。―組織を動かす対話とナラティブ』の2点を刊行するが、ビッグアイデア、ポピュラーサイエンスなどスケールの大きな知を提供する翻訳書の比率も半分程度になる見込み。早川書房や飛鳥新社で翻訳書を多く手掛けてきた富川直泰氏が副編集長として担当する。

 

NPBレーベルも継続

 

 一方、幻冬舎と共同で展開してきた「NewsPicks Book(NPB)」は幻冬舎のレーベルとして継続する。

 

 「NPB」が「NewsPicks」に登場する気鋭の書き手によるタイムリーな出版レーベルとして幻冬舎が企画・編集から発売・発行までを行っているのに対して、「NPP」はNewsPicksが提供する「学び」のフォーマットの一つとして、ビジネス、経済、人文を中心にしたオーソドックスな書籍を刊行する。


 ニューズピックスが独自に主要取次の取引口座を開設して発売・発行元となり、当面は月1点のペースで刊行。NewsPicksのアカデミア会員(会費月額5000円)に毎月送るほか、書店店頭などで販売する。


 大学卒業後最初に入社したディスカヴァー・トゥエンティワンで直接取引の書店営業も経験した井上編集長は、「本が必ずしもお客の目に触れていない、本と読者をうまくつなげていない」という問題意識を持つ。


 「大量に出版される本の内容を読者に伝えきれない中で、ビジネス書はキャッチなタイトルでお得感、実用性を前面に出さざるを得ない。ビジネスモデルがコンテンツの中味を制約してきた」と井上編集長。


 そこから、「これまで長い間変わらなかった本というフォーマットをアップデイトしたい。本は価値を失っておらず、流通・ビジネスモデルがうまくいっていないだけ。本の力を持続させるモデルさえあれば可能性はあるし、それを証明したい」という思いがある。


 「アカデミア会員」という固定読者を持つことに加え、刊行点数を抑えることで、「NewsPicks」で発信する書き手などの専門家が紹介したり、講座や読書会、書店店頭などリアルの場で情報発信するなど、プロモーションを集中させる。


 オフライン、オンラインの読書会などを通して、学びを深める新しい読書体験を提供することも。そのために新しいテクノロジーを使えるのも強味になると見ている。特に書店への期待は大きい。


 井上編集長は「書店でしか作ることのできない読者との出会い方がある。効率的にマッチングされ切れないところが書店の魅力」と述べる。


 7月10日に開いた設立記念パーティーでは、元さわや書店でリーディングスタイルの田口幹人氏とPebble books店長の久禮亮太氏と井上編集長による特別対談も企画した。


 「我々の成功の先に出版業界の成功があると伝えたい」という井上編集長の挑戦が、出版や本にとっての「希望」となるのか注目される。

 


井上慎平(いのうえ・しんぺい)氏

 1988年生まれ。京都大学総合人間学部卒、2011年ディスカヴァー・トゥエンティワン入社、書店営業、広報などを経て編集者に。17年ダイヤモンド社入社、18年ニューズピックス入社。代表的な担当書籍に中室牧子著『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、北野唯我著『転職の思考法』(ダイヤモンド社)など。