マイクロマガジン社が6月に創刊したレーベル「ことのは文庫」が好調だ。創刊第1弾として刊行した『わが家は幽世の貸本屋さん―あやかしの娘と祓い屋の少年―』(忍丸著)が発売2週間で重版が決定し、『極彩色の食卓』(みお著)も増刷を検討中。今回の新レーベル創刊にあたり、書店員に認知してもらうためのツールとして「NetGalley」を活用したことが効果的だったという。
「ことのは文庫」は大人の女性に向けたレーベルで、第1弾は小説投稿サイトの「小説家になろう」や「エブリスタ」で人気の作品を書籍化している。担当した同社編集の佐藤理氏は、これまでにも社内で、「ブックブラスト」や「マイクロマガジン社文庫」など、いくつかのレーベルを立ち上げており、その際の経験からまず書店員に作品を周知しないといけないと感じたという。
「刊行点数が多くなく、どうしても棚の中で埋もれがちで、目立たない感じだった。ただ、手にした読者からの評価は高く、書店員からも内容がわかっていれば何かできたかもといった話もあった。商品はもちろん読者向けに作っているが、その前に書店にちゃんと長く置いてもらうには書店員への周知が不可欠」と佐藤氏は語る。
「ネットギャリーでの事前販促で効果」
事前販促の方法を考えていた時に、SNSなどで書店員が「NetGalley」に関する投稿を多く発信していることに気づいたという。「NetGalley」は、出版社が提供する作品のゲラを読むことができ、さらに作品のレビューやメッセージを出版社に直接送ることで本のプロモーションを応援できるサイト。メディアドゥ(旧出版デジタル機構)が2017年から運営しており、登録会員数は現在4800人、書店員の登録者も1200人を超えている。
今までの書店営業では、書店員の興味関心に関わらず、プルーフ版を配って終わりになることが多かったが、「NetGalley」には積極的で意識の高い書店員が集まっており、地方の元気のある書店員にもゲラを届けることが可能。また、会員が作品を面白いとSNS等で拡散することで、発売前に多くの関心が作品に集まったという。
今回「ことのは文庫」の販促を「NetGalley」で展開するにあたり、十分な時間をかけて浸透、興味をもってもらうために4カ月前からゲラを公開。集まったレビューを帯やPOPに用いるキャンペーンを実施したほか、レビューを同社や著者のSNSで拡散、さらにFacebookの読書会やWebラジオのパーソナリティとして作品を自主的に取り上げてくれるレビュアーもいたため、「NetGalley」会員ではない書店員にまで広く波及していった。
営業では、書店訪問の際に「NetGalley」での評判を伝えることで会話のきっかけにもなり、事前受注へとつながることもあった。書店に知られていることで営業のモチベーションも上がり、社内全体として発売に向けて同じベクトルで動くことができた。
また、集めたレビューを注文書にも掲載し、普段ゲラを読む時間のない書店員にも同業者のレビューを読んで知ってもらうことで、作品への関心を高め、注文段階で初版部数も上げられたという。
佐藤氏は「いかに近刊情報を必要な書店員に届けるか、という点で『NetGalley』は実際に中身が読めるので、知ってもらいたいところに確実に届くサービスだった。作品には自信があったので、その面白さをどうやって読者、その前の書店員に伝えるかを意識し、編集自ら周知に力を入れ、今回の結果につながった。何よりもまず『伝えることが大切』で、ネットだからこそ可能になる発信力、拡散力も使いようかなと思う」と振り返る。同社はこれから読者に向けた販促に力を入れ、電車広告などを予定し、さらなる拡販を目指す。