文化通信社は2月3日、東京・中央区の銀座ユニークカンファレンスルームで、第19回文化通信フォーラム「最新のアメリカ出版事情とは」を開き、文芸エージェントの大原ケイ氏がアメリカの出版社や独立系書店の動向について講演した。セミナーには出版社や取次会社など出版業界の関係者約70人が出席し、会場は満席となった。
講師の大原氏は、米ランダムハウスや講談社アメリカに勤務後、2008年に版権エージェントとして独立。文化通信社が昨年9月9日から15日にかけて実施した「アメリカ出版事情ニューヨーク視察ツアー」では、コーディネーターを務めた。
大原氏は日本との違いに触れて、「日本では一つの出版社が書籍と雑誌を刊行し、コミックを手掛けていることも少なくない。しかし、アメリカにおいて書籍と雑誌、コミックはまったく別の産業だ。編集者の移動はほとんどなく、卸先や流通のルートも異なる。その結果、出版社は書籍らしさを追求しなければ生き残れない仕組みとなった」と説明。
長期的視野に立った企画しか通らないとしたうえで、「最大の違いは書籍が刊行されるまでの時間だ。編集会議で話されている本が刊行されるのは約1年後。刊行日までに書評集めや営業、著者の訪問先やイベント企画などを決める必要がある」と話した。
書店の動向については、ヘッジファンド(エリオット・マネジメント)が最大手チェーン店のバーンズ・アンド・ノーブルを買収。ウォーターストーンズ(英国の書店チェーン)のジェームズ・ドーントCEOが昨年8月、社長に就任し、改革は始まったばかりだという。
一方で、他社資本の傘下にない独立系書店は、コミュニティ形成と低返品率で勝負を仕掛け、書店数はこの10年で微増しているという。なお、アメリカに再販制度はなく、書店は返品が可能となっている。しかし、自動配本や見計らい配本などはなく、書店がカタログで事前に注文を行っている。
このほか、米国出版社の最新トレンドとして、オーディオブックが電子書籍に迫る勢いで成長していることや、図書館の電子書籍貸し出しの普及についても語られた。
次回は3月12日に第20回文化通信フォーラム「生産性の向上で成長する地域書店」を開催する。講師はブックエース代表取締役社長・奥野康作氏。
【鷲尾昴】