日本文学振興会が主催する第162回芥川賞、直木賞の贈呈式が2月20日、東京・千代田区の帝国ホテルで開かれ、『背高泡立草(せいたかあわだちそう)』(集英社「すばる」2019年10月号)の古川真人さんに芥川賞が、『熱源』(文藝春秋)の川越宗一さんに直木賞が、それぞれ贈られた。
芥川賞選考委員を代表して松浦寿輝氏は、「古川さんの周りの人の声に耳を澄ますことのできる『耳の良さ』が印象的で、人に対する優しさが染み通った作品世界は、他に得がたい資質だ」と評した。古川さんのこれまでの作品が「島」にこだわってきたことにも触れ、「書き続けていくことで、新しい文体や主題を通して、自分の世界を広げていってほしい」と伝えた。
また、直木賞選考委員を代表して角田光代氏は、『熱源』を「壮大で豊穣な物語」と賞賛。「本作は川越さんの前作でありデビュー作でもある『天地に燦たり』とともに、異なる文化・民族の人間たちが時代を創っていく姿を描いている。それこそが川越宗一という作家の『核』だ」と評した。さらに「その核を大事に書いていってほしい」と締めくくった。
古川さんは「もう死んでしまって顔を見ることのできない人たち」の存在が、創作の源であることを明かした。「彼らは、自身には見せない顔や姿形で、作品世界の中でいきいきと動き回っている」という。「また、決して自分から人の前に出ていこうとする性質ではない」と語り、「そうした亡き人々、そして作品の出版に関わった多くの人々に、これからもどんどん背中を叩いてほしい」と語りかけた。
一方、川越さんは「作品を書く度に、常に新しく作家人生が始まる」と心境を語った。歴史小説を書き続けていくうえで、「改めて、過去に生きたすべての人々に感謝している」とも述べた。直木賞を受賞したことで、「次はもっと面白いものを書かねば」と表情を引き締めていた。
日本文学振興会の中部嘉人理事長(文藝春秋社長)は、両受賞者の作家デビューまでの道のりを、ユーモアを交えて紹介。「人生、何がどう転ぶかわからない」としながらも、「ともに天賦の才に加え、見せてはいないけれども、たゆまぬ努力を続けた結果の受賞だ」とこれからに期待した。