学研プラスは3月17日取次搬入で、池上彰氏監修の最新刊『なぜ僕らは働くのか』を初版3万部で刊行した。もともと『僕たちはなぜ働くのか』というタイトルの書籍を、上下巻各4500円(税別)で2019年2月に図書館向けの商材として刊行したが、図書館司書や出版業界関係者からの評価が高く、このほど本体価格1500円に設定し、市販化に踏み切った。
【山口高範】
刊行前から読者を「当事者」に、レビュー投稿者をクレジット
同書は中学生の主人公ハヤトを通じて、「働くこと」「生きること」の意味を問いかける、ストーリーマンガ。すでに発売前から話題書として評判を呼び、類書など同ジャンルと比較して2~3倍の受注に達するなど、事前の受注においても好評を博した。
一方、メディアドゥが運営するゲラ読みサービス「ネットギャリー」を、事前の「ゲラ読み」目的のためだけでなく、プロモーションの一環として有効活用したことも奏功したという。
同サービスを通じて、感想やレビューを寄せた読者の名前を、同書籍の巻末に協力者としてクレジットを入れる試みを実施したのだ。結果、書店員などの業界関係者だけでなく、教育関係者などの一般レビュアーなどにも広がりを見せ、約50人からレビューや感想が寄せられた。
同書の編集を担当した宮崎純氏は、同サービスを積極活用した理由について「よりいい本にするために、自分自身の評価軸だけでなく、とにかく多くの人の評価や意見を集めたかった。熱量の高い読者らと、二人三脚で本づくりをする経験を通すことで、そういった読者らが、当事者として、自分事として情報を発信し、広めてくれる」と話す。
すでにコミュニティが成立し、プラットフォーム化に成功しているレーベルや出版社であれば、一般読者が自発的に情報発信をしてくれることは、比較的容易だろうが、不特定多数の読者を対象にした一般書の場合、読者層やその分母が広いがゆえ、読者が「自分事」、「当事者」として発信してもらえるハードルは高くなる。
宮崎氏は「ひとつの作品に対し、熱い思いを持っている人たちを集める仕組みは、一般書では難しいと感じていた。一方、ネットギャリーには本好きの人や本への熱い思いを持っている人が集まっているので、そのスキームを活用させてもらった」と語る。
また内容や構成だけでなく、表紙デザインにおいても同サービスなどを活用したアンケートを行い、会員に投票を求めたところ500人以上が参加。さらに学研プラスは朝日小学生新聞で20年1月から3月にかけ、同書の一部を抜粋した連載を開始した。
そのほか、商品紹介のランディングページ(LP)を設け、立ち読みページや寄せられた感想やレビューの掲載、さらには15秒のPR動画も制作。書店での販促用としても活用されているほか、人気声優の花江夏樹さんが出演したことも話題を呼んだ。
学研プラスが同書において一貫して行ってきた、刊行前からの「読者参加型」の事前プロモーション。同書の今後の動向に注目したい。
▼発売に合わせてPR動画を公開
▼PR動画(15秒バーション)