新型コロナウィルス(COVID―19)の感染が世界的に広まりを見せる昨今、各国の出版業界も緊急で抜本的な対応策を迫られている。感染者が急増しているアメリカでは、「不要不急業種」ではない書店が休業を迫られ、従業員が一時解雇されるといった事態となっており、こうした書店を支援する動きも広がっている。それらの動きをレポートする。
大原ケイ(文芸エージェント)
一時解雇を実施する独立系書店
感染者数の把握やその対策で他の国に一歩出遅れたアメリカだが、出版産業の中心地であるニューヨークや、アマゾンの地元であるシアトルなどの都市で感染が拡大している。
トランプ大統領率いる連邦政府が無責任な分、自治体や州政府主導で素早い対応を取らざるを得なくなっている。全国一律ではなく、各州の方針によって対応が異なるので、書店の状況を見ても対応がまちまちだ。
中でも規模の大きいニューヨークの古書店ストランドでは有休消化や健康保険を延長する一方で、従業員230人のうち188人をレイオフ(一時解雇)した。
同じニューヨークでは、支店を次々にオープンし快進撃中だったマクナリー・ジャクソンも従業員80人をレイオフ、やはり独立系のポズマン書店も5店舗全店閉鎖で従業員全員がレイオフとなった(自宅待機ではなく解雇するのは、すぐに失業保険や失業手当などが申請できるようにするためでもある)。
新刊と古書の併売などで知られるオレゴン州ポートランドのパウエルズ・ブックスでも、労組に所属する書店員を含めた約20人がレイオフされた。コロラド州のタタード・カバーのように無給休職扱いとした書店もある。
ストランドやパウエルズではレイオフされた書店員への救済金を募るサイトが立ち上がっている。
他の地域でも多くの書店が店は閉めているが、事前注文による受け取り(curbside pick―up)や自宅配送などのビジネスは続けているところが多い。
フロリダのBooks&Booksのオーナーであるミッチェル・カプランは「コミュニティー形成がわれわれインディペンデント書店の強みだったのに、それが裏目に出たのがなんとも皮肉だ」とコメントしている。
書店の事情はチェーンも同じで、ショッピングモール経営最大手のサイモン社が一斉休業を決めたため、モール内に入っている最大手書店バーンズ&ノーブル19店がクローズとなった上、営業を続けている店舗も時間短縮などの措置をとっている(同じジェームズ・ドーントCEOがイギリスで統率するウォーターストーンズは一斉休業となった)。
大手取次は営業を継続
アメリカ最大手の書籍流通業イングラムの本拠地はテネシー州ナッシュビルだが、ここでも「ノンエッセンシャル」(不要不急の)のビジネスは14日間の停止命令が下された。
だがイングラムは全米各地で店を開けているインディペンデント書店からの要請もあり、自らを「エッセンシャル」と位置づけ、作業を続けるとしている。出版社最大手ペンギン・ランダムハウスもメリーランド州の流通倉庫は閉めないとしている。
学校が閉鎖されている地域もあるため、ペンギン・ランダムハウスやソースブックス、児童書大手のスカラスティックやリトル・ブライン児童書部門は、特別にオンラインで生徒に向けた著書の朗読を許可している。ピアソンやマグローヒルなど教育書出版社の多くがオンラインでの閲覧を無料とし、サポート体制を強化した。
出版社などが書店を支援
全米書店協会(ABA)はウェブサイトにリソースガイドを立ち上げ、援助金や払込延期申請や、運営を続ける書店で取れる対策などをまとめて紹介している。
大手出版社の中には、アシェットやクロニクルなど、自宅配送などのサービスを始めた書店に対し、マージンの引き上げ(希望小売価格の5%)を決めたところもある。
書籍業界チャリティー基金(BINC)では、書店員を対象に医療費や雑費の援助をすると発表し、本屋の経営主から、自宅待機の書店員、さらには既に解雇となったパートタイム書店員までを対象としたCOVID―19対応の救急支援申込書を作成。ここにABAが10万ドルを寄付、ハーパーコリンズは5万ドルの支援をした。
ABAは、加盟店向けのECサービス「Bookshop・org」を通して、利用者が価格が10%オフになっているEブックを買うと、指定した地元のインディペンデント書店に売り上げの30%(普段は25%)支払われるシステムにしている。サイトのマージン10%も返上して書店に還元するという。
オーディオブックの「Libro・fm」も、プロモーションコードを使うことにより、1冊分の料金(15ドル)で2冊買える上に、売り上げ額がすべて指定のインディペンデント書店に渡るとしている。
全米85%のPOSデータを集計しているブックスキャンでは、3月19日付け最新週の売り上げが既に前週と比較して10%落ちたと報告している。