八木書店 400年前の『日葡辞書』高精細カラー版で刊行、ブラジルで原本発見

2020年4月9日

キリシタン版辞書『リオ・デ・ジャネイロ国立図書館蔵 日葡辞書』

 

 古典や古文書の複製出版に取り組む八木書店が3月30日、日本語にポルトガル語で注釈を付した『リオ・デ・ジャネイロ国立図書館蔵 日葡辞書』を刊行した。400年前に日本に来た宣教師が、布教や信者の告白を聞くために参照したとされるキリシタン版辞書。ローマ字表記にした日本語を見出し語に、その意味や説明が文例付きでポルトガル語で書かれている。約3万2800語がアルファベット順に収録されている。

 

 学術的な辞書であるだけでなく、宣教師が現地の日本人と会話でコミュニケーションをはかるため口語や方言、卑語も多く収録されている。

 

 編集に携わった出版部の恋塚嘉氏は「学問ありきではなく、きわめて実用的な本。当時どんな言葉が使われていたかの圧倒的な資料になる」と話す。これまでにマニラなど見つかっている他の原本との比較や、キリシタン語学の研究成果とあわせた解説と参考図版も掲載している。

 

 同書の原本は2018年にリオ・デ・ジャネイロ国立図書館で発見された。日葡辞書は1603~1604年にかけて長崎で刊行されたが、それ以降で日葡辞書が歴史にはっきりと登場するのは1800年代だ。

 

 ブラジル皇帝ペドロ2世が皇后テレザ・クリスチーナの名前を冠する収集品のひとつとして図書館に寄贈されたとの記録があるが、その間200年にどんな経路をたどってブラジルに渡ったのかまだわかっていない。今後、他のキリシタン版がどこかで見つかる可能性もあるという。

 

 日葡辞書がいかに各地に伝来したのか、日本、欧州、中南米の交流史を研究する上でも貴重な資料となっている。製作においてはリオ・デ・ジャネイロ国立図書館に、原本の頁を一枚一枚撮影してもらい、そのデータを原寸のまま、同社の技術「高精細カラー版複製」で製版・印刷した。

 

 昨年、世紀の新発見として新聞紙上をにぎわせた源氏物語「若紫」写本の書籍化を請け負ったが、日葡辞書においてもインキのかすれや滲みにいたるまで原本に近づけているという。

 

新刊について説明する八木取締役会長

 

 八木壮一取締役会長は「原本の情報をできるだけ正確に再現することに私たちは一貫している」と話している。

 

 □本体6万円/B5変形判・上製カバー装/868㌻。

【成相裕幸】