【新型コロナ】アメリカで独立系書店や困窮する著者を救済する動き

2020年4月28日

 もはや新型コロナウイルスの感染者数でも死者数でも世界一となったアメリカで、各都市のインディペンデント書店が経営危機にさらされ、ライターの収入が減っている。それに伴い、各種の経済的救済措置が講じられている。

大原ケイ(文芸エージェント)

 


 

専門誌がSNSキャンペーン「本は不可欠」

 

 アメリカの出版業界誌『パブリッシャーズ・ウィークリー』は、4月20日に「#BooksAreEssential(本は不可欠)」というハッシュタグでSNSのキャンペーンを始めると発表した。この週の号の同誌表紙には、本をマスクに見立てたフィンランドのイラストレーター、ピリタ・トルバネンの挿絵が使われ、著名人が同じポーズで撮った写真が掲載された。同時に読者にも同じポーズで自画像をSNSアップするように呼びかけている。

 

200424本は不可欠FinalBooksAreEssentialのサムネイル

アメリカの出版業界誌PW誌に掲載された#BooksAreEssentialのページ

 

 「危機的な状況だからこそ、本は人間の心にも、教育にも不可欠である」という宣言とともに同誌は、都市封鎖(ロックダウン)などで打撃を受け経営危機に陥っている書店や、解雇になった書店員たちのニュースを追い、一方で書店が情報を得やすいように書籍の刊行日変更などの情報をリストアップし、特別期間中としてオンラインで無料で読めるようにしている。

 

書店協会が独立系書店救済基金

 

 アメリカ書店協会(ABA)は4月2日に「インディー書店を救え」(SaveIndieBookstores)という基金を立ち上げ、影響を受けたインディペンデント書店(独立系書店)を救済する目的で、一般市民だけでなく、出版社や作家などからの寄付を受け付けている。ABAの発表によると4月22日時点で寄付総額は75万8302ドル(8000万円以上)に達している。

 

アメリカ書店協会 SaveIndieBookstoresのページ

 

 この基金にまずは人気作家のジェームズ・パターソンから50万ドルの寄付があり、本好き映画プロデューサーとしても知られるハリウッド女優のリース・ウィザースプーンがこのキャンペーンを宣伝するという後押しも手伝って、開設から2週間で22万8000ドルを集めた。

 

 さらに若者に人気のあるファンタジー「パーシー・ジャクソン」シリーズで知られるリック・ライアダン夫妻が上限10万ドルで「マッチング寄付」を募った。これは一般からの寄付で集まったのと同額の寄付を夫妻からする仕組みだ。ライアダンは「インディ書店の応援なくしては、今日の私の成功はなかった」とコメントしている。

 

 ABA会員書店がこの基金に対してオンラインで27日までに申請すれば、5月15日までに支払われるというスピードだ。同協会のサイトには、インディ書店が自分たちのホームページで寄付を募るためのリリースやロゴなどのリソースを載せ、自由に使えるようにしている。

 

 このマッチング寄付は前回のコラムで紹介した書籍業チャリティー基金(Book Industry Charitable Foundation)でも様々な個人や団体が実施しており、ニュー・アトランティック書店協会や、美術書出版のエイブラムズが寄付をしている。17日現在、35万ドル以上が集められ、この基金は書店員個人の医療費や家計を助けるのに充てられる。

 

 大手クラウドファンディングサイトのGoFundMeでは、各コミュニティーでインディペンデント書店によるファンドレイジングが行われており、「書店」で検索をかけると1000軒以上の書店が並び、寄付が既に目標額10万ドルを超えている店もある。

 

ペンクラブなどが著者に対する支援も

 

 著者個人に対しても保証が用意されつつある。PEN America(アメリカペンクラブ)は同会のWriters Emergency Fund(緊急基金)を拡張し、コロナ禍で影響を受けたライターに対し500ドルか1000ドルの授与金を配布している。こちらは申請から10日で返答がある体制だ。

 

 ペンクラブだけでなく、We Need Diverse Books、全米SF作家協会、Poets & Writersといった団体も1人当たり500~1000ドルの授与金体制を整えている。

 

 Authors Guild(全米作家協会)は会員が受けられる公的な救済措置を網羅しホームページにリストアップしている。さらに19の他の著者団体と協力し、フリーランスで働くライター、ビジュアルアーティスト、作曲家などが失業保険を受給できるよう、議会と交渉している。

 

 グローバルパンデミックの危機が続く中、書籍の購買にどのような影響があるのか、そろそろ売り上げ額などの数字が出てくる頃だ。

 

【感染拡大するアメリカ、独立系書店で一時解雇など進む】