【アフター・コロナのデジタル広告①】コロナ収束下でデジタル広告はどう変貌していくか

2020年6月11日

「新型コロナウイルス感染拡大がマーケティングに与える影響」(Markezine)

 

 マーケター向け専門メディアMarkezineはこのほど、企業のマーケターを対象に「新型コロナウイルス感染拡大がマーケティングに与える影響」に関するアンケート調査を実施した。

 

「オンライン会議サービス」導入・活用が34%に

 調査結果によると、広告予算については「変更はない」が最多の36%、「広告予算を減らすことを検討している」が29%、「広告予算の配分変更を検討している」が19%(表1)。新たに導入や活用を検討しているツール・サービスは、「オンライン会議サービス」が34%、「動画配信サービス」が20%となった(表2)。

 

 さらに、新型コロナウイルスの影響が長期化するなかで、今後のビジネスで重要なことは「デジタルにおける顧客とのコミュニケーション」が59%と最多の回答を得ている。

 

 2019年の日本のインターネット広告費は2兆円台を記録し、テレビメディア広告費を上回った(電通「2019年日本の広告費」)が、米国の19年のインターネット広告市場は約14兆円であり、全メディアの50%以上を占めている(eMarketer)。

 

鍵はプラットフォーマーの透明性

 

 デジタルマーケティングを利用したインターネット広告は、今後もデジタルメディアの接触時間に比例した市場拡大が見込まれ、プロモーションメディア(イベント、DM、折込)を抜いて、確実に日本のマス媒体に成長するだろう。コロナ収束下の日本で、デジタル広告がどのような変貌を遂げていくのか、展望したい。

 

 日本のデジタル広告市場が拡大するにつれて問題視されているのが、デジタルプラットフォーマーによる取引の不透明性と、派生する広告表示の問題および個人情報保護の問題である。

 

 5月27日、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」が、参院本会議で可決、成立した。適用対象となる「特定デジタルプラットフォーム」は、「売上高、利用者数などの事業規模が一定以上の経済的ネットワーク効果を有するデジタルプラットフォーム」という要件を満たすことから、楽天市場やAmazon、PayPayモール、メルカリ、Google Play、Apple Storeなどが想定される。

 

 しかし、デジタルプラットフォーマーの検討は、モール型ネット通販やアプリストア運営会社にとどまらない。19年10月に政府が発足したデジタル市場競争会議では、デジタル広告市場の競争評価について検討を重ねており、公正取引委員会はデジタルプラットフォーム事業者と取引関係がある事業者(広告主・広告代理店105社、広告仲介事業者38社、媒体社174社)を対象に、デジタル広告の取引実態を調査した。調査期間は20年2月25日~3月13日。

 

 調査結果によると、プラットフォーム別(Google、Yahoo!、Facebook、Twitter、LINE)の差異はあるものの、広告主・広告代理店の35~47%がプラットフォーマーとの契約内容について、「問題・課題のある内容を含む規定がある」と回答している。同様の回答は、広告仲介事業者が47~75%、媒体社は25~65%となっている。

 

 また、デジタル広告を配信した際のプラットフォーマーから開示される情報についても、一部の事業者は「アドフラウドに関する情報開示が不十分であり検証することができない」と考えている(プラットフォーム別に14~26%の回答率)。

 

 人間以外のBOT(自動化プログラム)によってPVやクリック数を水増しされる「アドフラウド」への不満はとくに大きく、広告主・広告代理店の45~60%、媒体社の34~45%は、当該5プラットフォーマーによるアドフラウド対策に不満を抱えている。

 

 アドフラウドと同様に課題とされる「ビューアビリティ」(広告が本当にユーザーに認識されているか)についても、広告主・広告代理店の51~55%は当該プラットフォームのレベルに問題・課題があると考えている。

 

 このようにプラットフォーマーによる取引の不透明性は、アドフラウド、ビューアビリティの問題に派生する。実際、日本のアドフラウド、ビューアビリティは先進国の中でも最低水準である。

 

 米IAS(IntegralAd Science)が行った世界主要10カ国のベンチマーク調査によると、19年下期は世界的なビューアビリティの向上が達成されたものの、日本はビューアビリティ、アドフラウドともに世界最下位を記録した。

 

 とくに、デスクトップのディスプレイ広告のビューアビリティは、18年下期からほとんど改善していない。アドフラウドも日本とフランスのみがフラウド率が悪化しており、悪化幅は日本のほうが大きい。

 

 一方、「ブランドセーフティ」(不適切なサイトに広告表示されていないか)は、今のところ唯一日本が安定的に低いリスク率を確保している。むしろブランドリスクのみに注目するあまり、アドフラウドやビューアビリティを悪化させていることが指摘されている。

 

アドベリフィケーションの強化を

 

 このようなデジタル広告の表示問題に取り組む「アドベリフィケーション」(広告の適正配信の検証)の認知度は、日本でも向上しつつある。当該ベンダーのモメンタムによる広告主調査によると、アドベリフィケーションの認知度は18年の31%から、20年は57%にまで向上した。

 

 自社のデジタル広告配信においても、アドフラウド対策は18年=13%→20年=44%に、ビューアビリティ対策は同16%→同42%に、ブランドセーフティ対策は同21%→同49%と、飛躍的に向上している。そして、広告主の40%以上が、アドベリフィケーション対策の有無を代理店や配信プラットフォーム選定の条件に入れている。

 

 今後のデジタル広告は、広告主を含めたプラットフォーマーのアドベリフィケーション強化によって、デジタル広告特有の課題も徐々に解決に向かっていくことが期待される。

 

 一方で、デジタルメディアがテレビメディアを超えるマス媒体となった以上、例えばテレビCMにおける業態考査のような独自の審査システムが求められる可能性もあるだろう。

 

 最後に、巨大プラットフォーマーが大量の個人情報を吸い上げているという事実について、人流データ分析の開示などコロナ禍における社会的便益とはトレードオフの関係にも見える。寡占が進むプラットフォーマーが広告事業の収益化によって、提供サービスの質をさらに向上させていく世界で、個人情報の保護ニーズは今後高まっていくのだろうか。

 

 次回は、デジタルプラットフォーム戦略と個人情報保護法によるゲームチェンジの行方を検討したい。

【水巻リカ】