ポプラ社「低返品高利幅」実験 実売維持し返品半額に

2020年6月22日

 ポプラ社は昨年春から返品率を低く抑えた書店に高い粗利益率を提供する実証実験「低返品高利幅」を、大手取次のグループ書店と行ったが、その結果、実売金額が増え返品金額が半減するなど目標を達成できたことから、今年度は対象を拡大するなどして継続している。

 

 この施策は、同社の出版物を対象に、実売金額を維持しながら一定期間内の返品率を10%程度に抑えた場合、書店の利益(流通マージン)を約10%上乗せする試み。

 

 トーハンの八重洲ブックセンター(9店舗)とは一般書・児童書の全タイトルを対象に、返品枠を設定し、これを達成した場合に報奨金で還元する形。日本出版販売(日販)のリブロプラスとY・space(約90店舗)とは児童書を対象に、返品率に応じて報奨金の還元率を設定するインセンティブ方式で実施した。

 

 今年3月末の時点で、児童書についてはこれら書店3法人で実売金額が前年比2・1%増だったのに対して、返品金額は49・7%減、返品率は前年の19・0%から10・3%に下がった。この結果、書店に対しては全体で本体価格に対して7・6%の利益を還元した。

 

ポプラ社低返品高利幅施策の結果サマリグラフ

 

 また、これら書店への送品金額は7・8%減と下がったが全国平均よりは高く、店頭のPOS販売実績も全国平均を1ポイント程度上回るなど、店頭における同社商品の販売シェアを引き上げる成果を得た。

 

 同社・千葉均社長は「出版業界には書店が書籍を売っても潤わないという構造的な問題があり、この実験は返品という無駄を削減することで利益を再配分し、書店が事業を継続できる形を構築することが目的だが、児童書についてはほぼ仮説通りの結果を得られた」と評価する。

 

 これを受けて今年度、日販は書店2法人に積文館書店を加え、出版社もポプラ社のほか翔泳社、TAC、童心社が参加して取り組みを開始。トーハンとは対象を児童書に絞り実施。低返品高利幅スキームに賛同する書店と出版社を広げることを目指して2年目の取り組みを開始している。

 

積極販売で占有アップ

 

 参加書店と毎月ミーティングを持ってサポートした同社児童書事業局・平瀬律哉副局長は、「当初は書店さん側に仕入を抑制する姿勢もあったが、話し合いを重ねる中で、この取り組みは返品率を下げるのが目的ではなく、利幅が大きい当社の商品を優先的に扱っていただいて利益を増やすことだとご理解いただき、積極販売で販売シェアを高めていただくことができた」と述べる。

 

 今年度は、日販と書店3社の本部と毎月オンラインによる新刊説明会を開くなど、施策の効果を高めるための販売促進に力を入れている。

 

 千葉社長は「初年度は当社の利益を減らすことなく書店の利幅を増やすことができた。2年目は返品減で成果を出すことが難しく、大きな挑戦になるが、さらに拡大していきたい」と話す。今後、施策により返品が減少することで製造部数や管理コストが下がれば、出版社側のメリットが大きくなるとみている。

 

 また、こうした取り組みを広げる背景として、「販売の場(書店)を守るために、出版社は例えすぐに自社の利益につながらなくても無条件で書店の利幅を増やすという感覚を持つべきだと思う。そのために出版社はますます効率化を図る必要があり、今後さらに物流や製造の共同化や協業などが必要になるだろう」と述べている。

 

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