扶桑社が2000年に刊行し、今秋で20周年を迎える累計発行部数405万部の大ベストセラー『チーズはどこへ消えた?』が、新型コロナウイルスの影響による特需で販売部数が大幅に伸長した。それを受け同社は、日本経済新聞(5月29日付)でメッセージ性の強い全5段広告の掲出を皮切りに、6月15日から東京・千代田区の丸善丸の内本店で1階から3階まで、総計45枚に及ぶポスタージャックを展開するなど、各種プロモーションに注力している。
【成相裕幸、山口高範】
同書はコロナ影響下の2020年3~4月にかけ、前期間比(1~2月)で販売冊数145.6%(日販POS店調査より)を記録。生活様式や働き方が大きく変化する中で、同書の「変化を受け入れ、楽しもう」というメッセージが、コロナ禍において、多くの読者に支持されたのではないかと見て、同社は大型キャンペーンを企画した。
その端緒として、5月29日の日本経済新聞に「これからの時代、可能性(=チーズ)がいっぱい。」というキャッチコピーを全面に押し出した、メッセージ性の強い全5段広告を掲出。「コロナ」という言葉をあえて使用することなく、デザインとメッセージで、「コロナ」をライフスタイル、ワークスタイルを変革するチャンスとしてとらえる、ポジティブなイメージで読者に訴求した。
アフターコロナの指針となる本
一方、この日経新聞の広告を目にした丸善丸の内本店の友田健吾副店長は、「久しぶりに見た会心のコピー」と評価すると同時に、アフターコロナの指針を示す書籍だと思い、扶桑社に対して、ポスタージャックの企画を持ちかけたという。
当初、同店ではカミュの『ペスト』(新潮文庫)やスペイン風邪の関連書など、史実や歴史ものが好調な売れ行きを示す一方、友田副店長はアフターコロナを見据えた企画を模索していたという。
同書のポスタージャック企画を提案した意図について、友田副店長は「『ペスト』をはじめ、確かに支持はされており、売れ行きも好調だったが、内容としては過去のもので、重たいものが多かった。書店として何かこれからの働き方や生き方、アフターコロナの世界を示す、未来に向けた本を提示できないものかと模索していた。その折『チーズは…』の広告とそのキャッチコピーを見て、『これだ』と思った。背中を押してくれる読後感があると同時に、『これから』を示す啓蒙本であり、今後の指針となる本だと思った。特にビジネス書は当店で大きく展開し、実績をあげることで、取次会社や他の書店にも広げていくことができる」と書店として同書を販売、発信することへの意欲を語る。
ポスター掲出で5倍の売り上げ
ポスタージャック企画の実施に際し、同店は1000部を追加注文。1階入口前に関連書も併せたコーナーを設置するとともに、2階と3階のそれぞれの新刊台で同時展開し、6月15日からは店内を「チーズは…」のポスターで埋める「ポスタージャック」を開始。1~3階のエスカレータ―横の壁にB1サイズのポスター45枚を掲出し、掲出前後で比較すると、実売は5倍以上に跳ね上がったという。
「掲出前の実売を比べると動きが明確に違う。実際にメッセージを全面に押し出したポスターの効果は大きい」と友田副店長は語る。
扶桑社は特約店契約を結ぶ「扶桑会」の書店法人のうち、6月17日現在で旭屋書店、大垣書店、紀伊國屋書店、精文館書店、田村書店、明屋書店、丸善ジュンク堂書店が、同様のポスターを活用した積極的な展開を図る意向を示しており、今後も順次、参加法人が増える見込みだ。
また、取次会社とも連動した販売企画も進行中で、同社は刊行20周年を迎える今秋までを目途に、現在の時勢だからこそ求められる1冊として、積極的なプロモーションを図っていく。