放送局、新聞社、出版社、放送局といった枠を超え、有力メディア28社がコンテンツと広告価値の追求を目指す「コンテンツメディアコンソーシアム」を結成し、透明性・信頼性を売り物にした、デジタル広告のプライベートマーケットプレイス(PMP)の運用に乗り出すことになった。最大の特長はメディア企業自ら運営に参画すること。参加メディアの150媒体を合計するとスマホメディアのリーチ総数の5割近く、PCでも3割近くに達するコンソーシアムは、多くのメディアの経営課題でもある「コンテンツと広告の価値向上」をどのように実現しようとしているのか。代表幹事である東洋経済新報社・田北浩章常務と、コンソーシアムの事務局をつとめるBI.Garageの長澤秀行取締役に話を聞いた。
【堀鉄彦】
「透明と信頼」が売りの広告配信PF始動
――まずはどのような経緯でコンソーシアムが生まれたかについて教えていただけますか。
田北 「コンテンツメディアコンソーシアム」はメディア企業のデジタル広告担当者が中心となって設立した「コンテンツメディア価値研究会」での議論の結果、生まれたものです。
コンテンツメディア価値研究会は、「デジタルメディアの価値が本来ある形で認められず、ないがしろにされてきたのではないか」という危機感をもつメディアが集まって、2017年に立ちあげました。コンソーシアムを構成する28社はすべてこの「コンテンツメディア価値研究会」のメンバーです。研究会設立後、コンテンツ評価の可視化、コンテンツと広告の相乗効果などについての研究を3年以上にわたって行ってきました。
全参加メディアが「出資」
――メディア企業が共同で広告価値の向上を図るプロジェクトはこれまでもいくつかありましたが。
田北 このコンソーシアムの最大の特長は、メディア企業が自ら主体となって運営する組織であることでしょう。事務局でありプラットフォームの開発主体でもある「BI.Garage」には、参加メディアすべてが出資しています。各社にはいわば〝経営判断〟としてかかわっていただいているわけです。
これまでも広告会社やIT企業が、メディア企業をとりまとめて運用する広告プラットフォークというのはあったかもしれません。しかし、メディア企業が主体となって、これだけの規模でプラットフォームを構築する動きは初めてだと思います。
コンテンツと広告の価値向上目指す
―活動としてはまず「広告収益の確立」から手をつけるわけですね。
田北 ネット広告で十分な収益が上がる状況を作るのが直近の課題であり、それができなければ次に向けた投資もままならないという認識に立っています。まずは主力のデジタル広告ビジネスをどう立て直し、伸ばしていくかが先決です。現状、サブスクで大成功を収めた「NYTimes」のようなことができるのは、一部のメディアに限られるのではないかとも思っています。
――危機感が高まっていたからこそ、小異を捨てて大同団結となったわけですね。
田北 新型コロナウイルス感染拡大による環境激変の中、各社の危機感が高まっています。口幅ったい言い方ですが、われわれのようなメディアが生き残ることは、結局読者の皆さんのためにもなるのでは。メディアの垣根を超えたこのコンソーシアムが成立した背景には、なによりもこうした危機感があるのではないかと考えています。
スマホアクティブリーチの5割をカバー
――有力メディアが多く参加したのは大きいですね。
田北 28社が運営する媒体のアクティブリーチを合計すると、スマホ利用者の半数近い46・91%、PCでは利用者全体の約3割近くにあたる28・07%に達します。
非常に強力な媒体社グループが結成されたわけで、プラットフォーマーの圧力にも十分対抗できるレベルにあるのではないかと思っています。
――コンソーシアムとして掲げる主な課題はどんなものなのですか。
長澤 コンソーシアムが掲げるテーマは大きくわけて3つあり、①広告価値・メディア価値の向上②プラットフォームなどへの対応戦略③サブスクリプションを含むコンテンツメディアの収益構造の更なる拡充となります。
広告価値・メディア価値に関しては、指標をブランドセーフティの仕組みを作ったり、それらに関する第三者機関による評価システムの構築にも取り組んでいます。
プラットフォームなどへの対応戦略的には、プラットフォームによるデータ寡占からの脱却というのも、テーマとなると思います。順番としては①と②をまずスタートし、続いてサブスクリプションなどコンテンツ収益構造の問題に取り組むというイメージかなと思います。
広告単価の引き上げは喫緊の課題
――ニュースメディアとしての課題感を抽出していただくとどうなりますか。
田北 我々ニュースメディアの立場から考えると、2つの問題があります。ひとつは広告のPV単価、もうひとつはプラットフォームの記事利用料です。
日本の広告単価は諸外国と比べても低すぎるのではないかというのが我々の認識で、どうしても上げていかなければならないと思っています。
1PVあたり0・1円とすると、月間1億PVあっても売り上げは1000万円にしかなりません。4億あっても4000万円、5億あっても5000万円です。これではメディア企業の屋台骨を支えることはできません。
“中抜き”の構造もなんとかしなければいけないと思っています。クライアントが支払った金額の3割ぐらいしか、媒体社に届いていないケースがあるともいわれています。プラットフォーマーが強すぎるわけで、広告主にとってはいくら宣伝費を支払っても砂に水を撒くような状態が続いているのです。これは、広告主にとっても我々メディアにとっても不幸なことではないでしょうか。
広告主の団体である日本アドバタイザーズ協会とは密に連絡をとり、事業成果報告なども逐次していくことになっています。
――広告以外の課題として考えているのは。
田北 プラットフォーマーが我々に支払う記事利用料も現状では低すぎるという認識です。いくつかのメディアが一緒になって値上げ交渉をしようとしたこともあったのですが、成果には結びつきませんでした。今回は広告価値を上げるという目的で集まっていますが、いずれ利用料もテーマにできたらと考えています。デジタルを収益の主軸とせざるえない現状を踏まえ、収益をせめて経営が維持できるレベルに引き上げたいですね。
PMPは7月から稼動
――具体的な活動スケジュールを教えていただけますか。
長澤 まず、PMPを使った広告配信の試験サービスを7月にスタート。同時に、「ブランドセーフティメディア確認」「メディアドック」の2つのプロジェクトをビデオリサーチさんなどの協力も得ながら始めます。
PMPは9月から本格稼働に移る予定で、今年度中には、ビューアブルインプレッションや動画課金メニュー、プライバシー保護を前提とした、いわゆる“ポストクッキー時代”においてコンテンツへのユーザー指向を活用したメニューなどを提供することも視野に入れています。
将来的には共通ID創設などもテーマに
――28社で共同商品の企画を行うわけですね
田北 それもありますが、我々のネットワークのブランドを確立し、広告配信の「ホワイトリスト」の代わりを目指したいです。日本アドバタイザーズ協会では、広告配信をしてブランド毀損にならない「ホワイトメディア」のリストを作っていますが、これは大変な作業と聞いています。
我々は第三者機関の検証も受けた形でアドベリフィケーションを徹底。アドフラウドなどが発生しない態勢を構築します。全社目視の配信確認も徹底するなど、信頼性があり、リーチが確実で広告効果も高いメディアグループとしてのブランドを確立したいですね。広告主から我々が最優先の「ホワイトリスト」として活用されるのが理想でしょう。
――デジタル広告ビジネスの大きな課題としてサードパーティクッキーの利用停止に関するいわゆる「ポストクッキー問題」もあります。利用者のファーストパーティ/ゼロパーティデータ取得に注力するメディアが増えているわけですが、コンソーシアムの課題としても取り組むのでしょうか。
田北 「ポストクッキー問題」への対応は、このコンソーシアムの大きなテーマでもあります。どのような形で対応するのが適切か、結論が出ているわけではないのですが、当然議論をしていくつもりです。
IDは、各社の利害がぶつかる領域です。最も大変な課題ではありますが、一緒になって議論し、技術開発にも取り組むことで途が開ける可能性は十分にあると思います。
長澤 クッキーレスになった時、(強力なID基盤を持つ)既存プラットフォーマーの優位性が強まるという危機意識もあります。その時に、メディア別のID基盤で戦えるのかという問題もあり、早急に検討すべき課題のひとつと考えています。
――ドイツの「Axel Springer」などは、ドイツの産業を横断的に結ぶ共通ID基盤の構築でもリーダーシップをとる企業のひとつとして活躍しました。海外のメディアコンソーシアムの動きについてはどう考えていますか。
長澤 フランスにはフランスの大手パブリッシャー2社、16のメディアブランドが参加するアライアンス「Skyline」があり、ドイツにはドイツの大手パブリッシャー5社が参加する、72メディアの「AdAlliance」があります。いずれもGoogleやFacebookなどのプラットフォーマーに対抗する有力な手段となっています。
彼らも、我々同様に最初は広告プラットフォームの構築からスタートしたのですが、データ共有、さらにはID共有基盤の構築を含む形に活動領域を広げ、今にいたっています。コンテンツメディアの価値向上を全体で考える以上、ありえる動きと捉えています。
――コンソーシアム参加各社で足並みをそろえ続けることが非常に大事になってきますね。
田北 このプロジェクトがうまくいくかどうかは、まさに参加各社が小異を捨てて取り組むかにかかっていると言っていいでしょう。会社ごと、媒体ごとに規模、強さには当然格差があるわけですが、それらを調整しつつ目標を見定め、いい結果をだしていきたい。協力し、活動を続ける中でいろいろな可能性が見えてくるのではないかと信じています。
「コンテンツメディアコンソーシアム」参加各社(順不同)
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