ブックライフ・ファシリテーター 野坂匡樹さん「書店員の新しい道開拓を」

2020年7月8日

ツクヨミプランニング・野坂匡樹さん

 長年の書店員経験を生かして、小規模書店の開設支援や、自費出版・商業出版の補助、イベントの企画・提案など「本」にまつわるあらゆるコンサルティングを行うブックライフ・ファシリテーターの野坂匡樹さん(48)。2018年にツクヨミプランニング(大阪府吹田市)を立ち上げ、書店員を続けながら、絵本専門店のオープンや飲食店に並べる本の選書などを手がけている。

【堀雅視】

 

 ※「ファシリテーター」とは、会議などをマネジメントする技術(ファシリテーション)を有する人のことをいう。意見を引き出し、話し合いを活性化させ、合意形成にいたる道を伴走する。研修などの進行役としても活躍している。

 


「本」で人と人、人と生活つなぐ

 

 野坂さんは、2つの大手書店で計30年間勤務する大ベテラン。コミック以外全ジャンルの担当経験を持ち、1社目の書店では海外勤務も経験した。職場ではスタッフから慕われ、ときには意見が異なる者同士の仲裁役になるなど、まとめる能力に長けている。

 

 8年前、ある本で「ファシリテーション」の言葉を知り、自分に向いているのではないかと専用の講座にも通い、ファシリテーションの技術を習得していった。

 

 日ごろから「あらゆるジャンルの本と接している書店員の知識をほかのことでも生かせないか」「出版界の活性化につなげられないか」と、思案していた野坂さん。書店員の枠を超えたビジネスに向けて動き出す。

 

中小企業庁の支援事業に専門家として登録

 

 ブックライフ・ファシリテーターの野坂さんは、長年の書店勤務経験により、商売を始める人の商品構成やディスプレイなどの相談に乗れることが認められ、2017年、中小企業庁が運営する中小企業・小規模事業者の事業支援サポートを目的としたWebサイト「ミラサポ」(現在はミラサポplus)に「中小企業庁ミラサポ専門家派遣登録専門家」として登録した。

 

 業種を問わず、100件以上の起業人や小規模事業者の相談に乗った野坂さんは「起業を目指す人は、みなさん壮大な構想や斬新なアイデアを抱いている。それを否定したり、頭ごなしに『こうしなさい』と言うのはNG。いかにアイデアを整理して、課題解決の糸口を探り、本人が元気になってビジネスに臨むことが大切」とファシリテーターとしての極意を述べる。

 

 また、「『本』以外の事業は、当然クライアントの方が詳しい。みなさんの言いたいことに耳を傾け、文字や図表などに可視化することで、『考えが整理された』『方向性が見えてきた』などと言ってくださる。積んできた経験と学んだファシリテーション技術が、少しは役立っているのでは」と手応えをつかむ。

 

絵本専門店をプロデュース

絵本専門店「coccole」店内(coccole 提供)

 

 「本」に関しては圧倒的な自信を持つ野坂さん。5年前から自身に「ブックライフ・ファシリテーター」の肩書を付け、商標登録を申請し、今年5月に認められた。

 

 正式なビジネスとして展開しようと18年、ツクヨミプランニングを設立。大阪府豊中市で絵本専門店の開業を希望する女性から依頼があり、構想、選書、陳列など全面的にプロデュースし、19年6月にオープンした。

 

ワクワク感提供したい

選書を手伝った大阪・北浜の絵本カフェバー「Conteur」保富貴子オーナー(右)と野坂さん(左)

 

 その後も絵本を置きたいカフェバーや、コワーキングスペース(共同オフィス)で選書の協力、さらに今年は調剤薬局で本を売るプロジェクトに参画し、依頼者の夢を実現させた。

 

 書店のプロデュースや選書で重要視することは「クライアントの思いをしっかり受け止め、その思いを反映した棚をつくる。そのために何度も話を聞く」と妥協を許さない。

 

 そして、「事業が継続できるかが最も大切。要望に100%応えることは難しいが、来店客には人の家の本棚をのぞき見る『ワクワク感』のようなものを提供したい」と明確なコンセプトを持つ。

 

 出版コンサルでは、知人と共同で出版社に持ち込んだ企画が不採用になるなど紆余曲折を経て、昨年末『アルゴリズム音読』(IBCパブリッシング)を刊行。版も重ね、今年7月には第2弾を出版する予定だ。

 

 イベントは、書店や飲食店などからの依頼を受けて、絵本関連を中心に開催する。自らの企画でも出版業界のセミナーなどを開き、人気を集めている。

 

書店員の武器生かす

 

 今後について「『本と○○』のようなコラボ企画を積極的に提案していきたい。既存書店の新たな選書見直し、リニューアルなど業界の役に立つことは何でもやっていく」とし、「私だけでなく、書店員の知識を『本を売る人』だけに使うのはもったいない。書店員の新しい道が開拓できれば、書店で働く人の励みになる」と話す。

 

 最後に、「ゆくゆくは自分の書店も持ちたい」と夢を語り、店名は「ツクヨミしろくま堂書店」に決めているという。