講談社のグループ会社、短歌研究社が7月から発売を講談社に一部委託し、書店店頭での販路を広げている。これまで個人の自費出版が中心だったが、一般向けに広く短歌の魅力を伝える書籍を刊行していく。その第1弾として、新宿歌舞伎町のホストが2年近く続けてきた歌会をまとめた『ホスト万葉集』を7月6日に刊行した。歌人の俵万智氏が編纂に参加するなど、話題を集めている。
【成相裕幸】
「ライトな短歌書」の書店展開拡大
短歌研究社の刊行物の柱は自費出版、月刊誌『短歌研究』、そして自社で企画する短歌に関わる歌集や論集。特に『短歌研究』は「短歌結社を横断、媒介するものとして存在意義があった」(國兼秀二社長)が、昨今では短歌結社に所属する歌人の高齢化や、代替わりなどで自費出版の点数も減少傾向にあった。
一方、それまでの短歌とは、がらりと異なる口語体の短歌を発表してきた歌人の俵万智氏や穂村弘氏を読んできた世代が、既存の結社だけでなく、短歌同人誌や大学短歌会などで研鑽を積み、SNS発信も盛んになってきたことから、短歌の読者のすそ野が広がってきたという。
講談社で文芸編集者を長く務め、2017年に短歌研究社の社長に就任した國兼氏は、「短歌研究社の販売力と書店員との絆は濃いが、限定されていた」ことから、上記を踏まえ販路を広げていきたいと、これまでの短歌関係者以外にも届くような企画を進めてきた。
その流れでできた講談社への販売委託第1弾が、歌舞伎町のホストが詠んだ『ホスト万葉集』だ。「歌舞伎町ブックセンター」での出版記念イベントをきっかけに、新宿歌舞伎町の「スマッパ!グループ」で働く75人のホストが参加。このイベントを、國兼氏を通じて知った俵氏も、編纂者として参加した。
月1回のペースで開かれた歌会などで披露された900首の中から、300首を選んだ。章立ては「歌舞伎」に来た、初指名―1年目、姫と一緒に―2年目と続き、歌舞伎町で働き始めたホストが年々成長していく物語としても読める。
新型コロナウイルスの影響で、ホストクラブが休業要請対象となったときには「Zoom」で歌会を実施した。「歌舞伎町 東洋一の繁華街 不要不急に殺される街」(江川冬依)など、歌会で披露された首も収録した。
当初、4月に刊行する予定だったが、このコロナ禍でホストクラブへの世間的な風当たりが強くなったことも災いし延期していたが、「この日しかない」(國兼氏)と決めた俵氏の有名な1首「サラダ記念日」の7月6日に合わせて刊行された。
8月に刊行する新刊『短歌研究ジュニア はじめて出会う短歌100』は、『短歌研究』の付録小冊子に書き下ろしを加えたものだ。現役の高校教師が、現在使われている教科書すべてを調べ、小学校高学年から中高生向けの「オールタイム百人一首」。すでに図書館流通センターから600冊、一般書店からも500冊の注文も寄せられ、幸先のよいスタートを切った。
短歌研究社は今後、新刊に限らず、過去に刊行した歌集などを新たな判型に組み直したり、廉価版などにして市場に投入していくことも進める。
講談社に販売委託して刊行する主な近刊は、以下の通り。◇工藤吉生歌集『世界で一番すばらしい俺』◇品田悦一『万葉ポピュリズムを斬る』