書誌情報を充実させれば、それだけ販売チャンスが広がる――この思想は100%正しいとは言えないが、しかし重要な考え方である。この思想を体現した一つはAmazonである。もちろん、書誌情報だけでAmazonの売り上げが伸長したわけではないが、それでもなお、確かに書誌情報を充実させることは販売チャンスを広げることになる。
湯浅創(株式会社インプレス)
BooksPROはその思想を「日本の出版業界として」体現しようとしている。Amazon一社と異なり、出版社をはじめとするステークホルダーの合議体であるJPROにおいてその運営がなされているがゆえに、その方向性を定めるにはご苦労があったと拝察できる。そのうえで、出版社側から見た現状のBooksPROと、それを踏まえた将来について考えを述べてみたい。
3月10日にオープンしたBooksPROは、スマホ版および出版社向けのBooksPRO Compactが6月5日オープンと段階的に発展していっている。3月10日ということからもわかるように、COVID -19の影響も大きく、周知があまりなされない状態でオープンとなったことはスタートとしては不運ではあった。しかし、直接的に売買に関わるものではないゆえに、悲観することではない。
出版社側としては、「Compact」の方にのみアクセスできるので、まずはそれをベースに要望点を指摘したい。
要望1 出版社をキーにした検索
各出版社の第一の関心は、自社商品が正確に記載されているか、という点にある。試しに「インプレス」で検索すると、結果にはKADOKAWAや扶桑社のアイテムが含まれている。他社商品が含まれた検索結果が返ってくるが、それは全文検索に起因しているようだ。
また、ジャンル検索については登録項目が不十分であると、正確な結果を得られない。特にCコードが重要である。出版社としては、十分な登録項目を満たさないといけないという点に気を付けなければならない。
要望2 著者名をキーにした検索
出版社向けのBooksPRO Compactでみると、著者名で検索した場合、その著者の前後2~3カ月の作品しか結果として出てこないのだが、この点はJPROの方で自社の刊行物を確認するという立て付けのようである。なお、書店が使用するBooksPROからは結果が出るようである。
上記2つの点から言えることは、BooksPROでも検索ワードの種別を選択できるようにすることが望ましい。現在は、「すべて/近刊のみ」(または書籍のジャンル)という区分である。
要望3 検索結果( 概要)のところに判型がない
「書影/書名/著者名 ISBNコード/本体 発売(予定)日/出版社」が検索結果概要であり、詳細へ飛べば判型も登場するが、概要欄に判型があった方がよい。
要望4 検索結果のCSVダウンロード機能がない
検索結果を別の用途に利用することも想定できるので、この機能は実装されるべきであろう。その場合、チェックボックスを入れたアイテムのみのダウンロードができるとなおいいだろう。
さて、このBooksPROの利用状況については、現在JPROがアンケートを募集しているので、それによって改善されていくと思われるが、以前、私がTwitter上で簡単なアンケートを実施してみたところ、「サイトがわかりにくい」という回答が多かった。
これはおそらく「データベースとしてのAmazon」を超えることを求めているのではないか。つまり、類書は出版社側が登録すれば掲載されるが、登録なしでもAIによって判断された類書を結果として返すことや、ジャンルのランキングの結果が求められているのではないかと思われる。あるいはBooksPROの結果に在庫情報の記載や発注ができる必要がありそうだ。
最後に指摘しておくべきは、利用端末、環境の問題である。店内環境の厳しさから、書店員個人のスマホ(自らの契約回線)でお問い合わせへの検索対応をしていることが散見されるので、PC端末あるいはタブレットの貸与、あるいはBYODを前提として、Wi -Fiルーターの貸与が必要と考える。これらインフラの整備については、取次がハブとなって、出版社からの協力金を集めることも選択肢だろう。
一部からは、BooksPROの情報を推進しているはずの取次において活用されていないと聞く。移行期とはいえ、それを積極的に使う姿勢を見せなければこの構想も崩壊するであろう。
1974年東京都生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。2007年2月TAC株式会社出版事業部入社後、編集部、製作部、電子書籍製作を経て、営業部に異動。商圏調査により、個々の書店の棚作りを提案する、足で稼ぐデータマニア。20年7月より現職
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