新機軸の格安書店(by八木書店)の賑わい
今年のGW時は、コロナ禍で外出もままならず、自宅のある千葉県いすみ市で農作業をした。7月は、「GoToトラベル」キャンペーンに合わせ、今年最初の軽井沢行きとなった。地元のミニコミ紙である『軽井沢新聞』と『軽井沢ニュース』に、「日本初のアウトレット書店が軽井沢プリンスショッピングプラザに誕生!」という広告を見つけた。さらに、「全品新本30%~70%OFF」とのコピーも。早速、翌日に行ってみた。
店名は「PAGES」というが、モールでアルバイトの人に聞いてみると、「ああ、タリーズの隣で、絵本を売っているお店ね」と、教えてくれた。なるほど、その通りで、店先には絵本が並んでいる。しかも、外国の絵本がたくさんあり、ふつうの本屋と雰囲気が違う。店内には、白い紙の吊り飾りやポップも賑やかだ。
書籍文化再興の一拠点として
店内は、子供やその保護者らしい大人、そして女性客やカップルなどで、かなりの賑わいだ。その日は、7月24日、体育の日。コロナ禍中の4連休の最中で、ショッピングモールの芝生やベンチにもたくさんの人出があり、頷ける。
筆者は妻と行ったのだが、2人とも本好き。奥のほうで妻がお店の人と楽しそうに話している。その中に、私も加わった。名刺交換すると、「八木書店取締役・八木唯貴」とある。このユニークなアウトレット書店の店長は神田の老舗書店の一族であった。
私の質問は、無粋にも「どうして新本を値引き販売できるんですか?」と直球だ。いやな顔もされず、説明してくれた。専門的な話は筆者も不案内だが、かいつまんで言うと、出版社が抱える在庫の中から出版社の判断で再販売価格維持契約の対象から外す形にして買い取り契約を行い、日本初の書籍のアウトレットの拠点としたのだという。
店内には、1500品目の本を10冊程度ずつ、合計1万5000冊程度を配架している。値引きはされているが、確かに新本である。ただ、裏表紙のバーコードの位置には、「PAGES」の名前入りの新たなバーコードのシールが貼られており、会計や在庫管理に利用されている。新刊価格の60%くらいの値段となっている。
例えば、2000円の本が1200円であり、本好きには、たまらない値段である。おまけに、店内には、5冊まとめ買いで、販売価格からさらに10%の値引き、8冊以上のまとめ買いでは、20%の値引きとの表示があり、妻殿は、さっそく8冊を選んでいる。が、少し遠慮してもらい、私の欲しい本も入れて8冊にして購入した。
今回、筆者らが購入した本の通常価格の合計金額は、1万3068円であったが、支払い金額は、8冊まとめ買いの20%値引きを入れて、5852円であった。計算すると、55%Offである。防災の本、ドン・キホーテの本、短歌の本、俳句の本、鳥獣戯画図など興味ある本をこの際に購入できた。
八木店長は、展示にも工夫しており、基本的に、背表紙だけでなく表紙が見えるように書棚に配架しているという。アウトレットだから投げ売りという感覚ではない。それは書籍文化を再興する方法としての取り組みでもある。軽井沢ショッピングプラザでは、衣料品や日用品のアウトレットがモールで賑やかに販売されてきたが、何か文化的なものが欲しいというニーズに応えての書店の出店であったという。
昨年の11月に開店、それから半年が経過したが、コロナの影響をよく持ち応えたと思う。八木店長は、軽井沢に住み、週に2~3回は東京へ出張し、両方で事業を進めているという。軽井沢といえども、東京から見れば地方になる。しかし、ブランド力のある西武系&軽井沢で、国内では極めてまれなアウトレット専門店が展開すれば、全国に波及するきっかけになる。
地方での書店の撤退が目に付くこの業界に、明らかにインパクトを与えることになるだろう。文字通り書籍文化の再興の切り札になるのではないかと、筆者は歓迎したい。
佐藤建吉 一般社団法人「洸楓座」代表
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【略歴】1950年山形生まれ。東京都立大院卒。元千葉大大学院工学研究科准教授(金属疲労専攻)。金属疲労の研究のほか、他分野のテーマの研究開発に努めるとともに日本各地の地域おこし活動に従事する。ローカル鉄道と地元の酒蔵のコラボで地域再生を図る地酒「鐵の道」の製造・販売を企画、すでに10件を超える銘柄を送り出している。一般社団法人「洸楓座」代表。「全国ふるさと大使連絡会議」理事。