第57回「文藝賞」 藤原無雨「水と礫」に決まる、優秀作は新胡桃「星に帰れよ」

2020年8月27日

文藝賞(河出書房新社主催)

 

 河出書房新社は8月27日、第57回文藝賞の受賞作が藤原無雨「水と礫(れき)」に決まったと発表した。優秀作には新胡桃「星に帰れよ」が選ばれた。応募総数は2360作で、前回の1840作を大きく上回り、賞開始以来最多を記録した。


 選考委員は磯﨑憲一郎氏、島本理生氏、穂村弘氏、村田沙耶香氏の4人。選考会は同20日に明治記念館(東京・港区)で行われた。受賞作、選評、選考経過、受賞の言葉は10月7日発売の『文藝』冬季号に掲載する。

 

 授賞式は11月中旬、明治記念館で開く予定。受賞者には正賞の記念品、副賞50万円、優秀作には20万円が贈られる。


 藤原氏は1987年、兵庫県姫路市生まれ。32歳。埼玉県在住。著書にマライヤ・ムー名義の共著『裏切られた盗賊、怪盗魔王になって世界を掌握する』(一迅社)がある。

 

 新氏は2003年、大阪府生まれ。16歳。東京都在住。現在高校2年生。

 

 

 

【文藝賞 受賞作】

「水と礫(れき)」(400字×274枚)藤原無雨(ふじわら・むう)氏

 

〈内容〉
 お前の中には、誰かの見た風景が詰まってる。誰かの中にも、お前の風景がある。


 東京でのドブ浚いの仕事中の事故をきっかけに生まれ故郷へと戻ったクザーノは、弟分である甲一の後を追い、砂漠のむこうにあるという幻の町へ、ラクダのカサンドルを従え旅立った——砂漠の熱で身体を灼くのだ、それしか、この身に染み込んだ東京の水分から自由になる方法はない。 父のラモン、祖父のホヨー、息子のコイーバ、孫のロメオ。何度でも回帰する灼熱の旅が、一族の目にしたすべての風景を映しだす。時代を超え砂漠を超え、無限の魂の網の目が、いま、この瞬間に訪れる。

 

 繰り返されるイメージが壮大なスケールを描きだす一大叙事詩。


【優秀作】

「星に帰れよ」(400字×100枚)新胡桃(あらた・くるみ)氏

 

〈内容〉
 勝手に諦めんな。
 「価値観が違うから仕方ない」なんて、浅いんだよ。

 

 16歳の誕生日をひとり深夜の公園で迎えた真柴翔。好意を寄せる早見麻優に告白する練習をしているところに現れたのは、“モルヒネ“というあだ名で呼ばれるクラスメイトの女子。軽快なおしゃべりの傍ら、何の気なしに真柴が「お前おもしれーな」と言うと、「ごめん、その褒め方やめて」と硬い声が返ってきて——。シリアスなことが苦手で自分を軽薄に保ちたい真柴、自身の美点を理解し器用に立ち回る麻優、神様を求めながらも揺るがない自分の正義を探すモルヒネ。


 高校生たちの傲慢で高潔な言葉が、彼らの生きる速度で飛び交い、突き刺さる。