出版物の在庫を保管・管理して、取次などへ出荷している倉庫会社は、業界の外からは見えにくい、まさに縁の下の力持ちだ。彼らのおかげで、出版社は物流部門を抱えることなく本づくりに専念できるし、ネット販売の増加や出版流通の変革といった急激な環境変化への対応も可能になる。こうした出版倉庫の現状や今後のテーマなどについて、倉庫会社34社で構成する出版倉庫流通協議会・友弘亮一代表幹事(昭和図書代表取締役社長)に話を伺った。
より正確な在庫情報開示や事前受注などへも対応へ
――協議会が発足して何年になりましたか。
2003年に設立されたので17年目です。設立してしばらくは、書籍へのICタグ装着の実証実験や、経済産業省の「フューチャーブックストア・フォーラム」に参加するなど、新しい物流に対応する研究や実証をしていましたが、ICタグはなかなか一般に普及しないなど、ある程度結果が見えてきたことから、現在は勉強会や情報交換を中心に活動しています。
取次の変化とデジタル化進む
――この間に出版倉庫が置かれている環境は変わりましたか。
なんといっても取次さんの変化ですね。取次会社の数も減り、出版流通の考え方も大きく変わりました。
それから、当社は小学館や集英社といった一ツ橋グループの物流会社なので、そういった出版社は電子書籍の売り上げ比率がだいぶ増えつつあるといった変化もあります。
もちろん、デジタル化の流れは当然のことですし、ネットで人気が出た漫画作品が紙の本になってブレイクするといった現象もありますが、どうしても、物を動かすビジネスの我々にとっては少々厳しいものがありますね。
在庫情報開示の流れに対応
――倉庫会社の仕事自体も変わってきたのですか。
流通面でのデジタル化ということで、今後は日本出版インフラセンター(JPO)の「JPRO(出版情報登録センター)」や、書店向け情報ポータルサイト「BooksPRO」を通して、在庫情報も書店などにオープンにしていく流れになるでしょう。
そうした流れに対応して、出版社の要請があれば、我々はお預かりしている商品の在庫情報を提供しなければなりません。それは、今まで以上に正確な在庫管理が求められるということです。
もちろん今までいい加減だったということではありませんが、やはり在庫の有り無しや生の数字をネットですぐ確認できるようになって、流通・小売サイドから注文が来る状況になれば、これまでより正確な在庫情報が要求されます。
スピードと正確性を両立
――昭和図書ではどのような対応をされているのですか。
出版社さんも以前に増してスピードを要求されているので、私が現職に就いてから、社内では「物流のクオリティ」という言い方をしているのですが、スピードと正確さをさらに追求しています。
スピードと正確さを両方いっぺんに実現するのはなかなか難しいのですが、そのバランスの中で、少しでも早く正確に荷物をお届けすることを目標にしています。
社内的には管理倉庫が複数箇所に分かれているといった課題はありますが、夜中のうちに来た注文を朝リストを出して、午後には順次出庫できる体制にしていますので、社内の速度は限界に近い状況です。いまはさらに早くするために、取次さんとスピードアップの方策をご相談しているところです。
――どのような提案をしているのですか。
取次さんは小学館、集英社の荷物だけを運ぶわけではありませんから、他の出版社の商品と荷合わせする必要があります。
当社がお預かりしている商品は、いまは一ツ橋グループの出版社が中心ですが、18年には筑摩書房さんの物流を受託しましたし、子会社の出版ネット&ワークスでお取引している出版社が21社あります。
もしそうした出版社の商品をまとめることで一定の荷物になれば、もしかすれば取次さんの中で早く回せるのではないかといったご提案をしています。
取次協業や事前受注などに関心
――いま倉庫会社が持っている問題意識はなんでしょうか。
やはり、急速に変わっていく出版流通に関してが、一番の関心事だと感じます。協議会が今年5月に予定していた勉強会はコロナの影響で中止になりましたが、内容は取次さんにお願いして、出版物流の将来像でした。取次さんの変化には皆さん大変興味をお持ちです。
トーハンさんと日本出版販売(日販)さんの協業化は業界的にはいいことですし、やらなければならないことだと思いますが、倉庫会社の立場からすると、両社で条件が違ったり、やり方が違ったりします。搬入時に車が混むんじゃないかといった心配もありますから、業界としては直接お話を伺っておきたいと考えています。
それから、日本出版インフラセンターや「JPRO」の今後の動きの中で、最終的には新刊の事前注文をとるといった流れがあります。そうした動きにどう対応していくのかというところも、自分たちの仕事に直接関わってくるテーマなので関心が高いです。
ピンチの時こそチャンス
――このところ返品も減ってきていますが、送品・返品の流通量が減ることは倉庫会社にとってマイナスではないですか。
倉庫会社にとって物量が減っているのは厳しいです。ただ、社内的には「ピンチのときこそチャンスあり」と言っています。
倉庫会社は複数の出版社の商品を扱っているところが多く、物量がまとまるため、トーハンさん、日販さんなどに毎日、トラックを出すことができます。
ところが、個々で倉庫を持って物流を自前でされている出版社さんの場合、取次さんから集品に来てもらえるケースもありますが、見本を持って行ったり、注文品を届けたりしなければなりません。
これからは取次さんによる集荷もなかなか厳しくなってくるでしょうし、持って行くとなれば人件費がかかります。そう考えると、管理費用などがかかったとしても、倉庫会社に頼んだほうがトータルのコストが抑えられるかもしれません。
そういう意味で、倉庫会社もこういう時代だからこそ、いろいろなサービスを提供していけば、やりようがあると思います。
そのためには、先ほど申し上げた「JPRO」などに在庫情報を提供するといったシステムが必要になります。より正確な情報を管理して提供できることが一番です。
あとは、どれだけ早く送ることができるか。特にネット書店への供給に関しては、スピードと正確な情報が要求されます。再三申し上げるこのスピードと正確な情報というのは、倉庫会社としてやっていかなきゃいけない永遠のテーマだと思います。
コロナで実感“縁の下の力持ち”
――新型コロナウイルス感染拡大の影響はいかがですか。
まず、今回のコロナ禍によって、物流業者が本当に〝縁の下の力持ち〟だと実感しました。
人々が外出を控えるために通販の利用を促すような雰囲気のなか、物が届いているのは、スーパーやお店に届けるのも含めて、物流を担っている人たちが商品をピッキングして、配送した結果、お手元に届くわけです。そのことを政府や行政の方々にも改めて認識していただきたいと思いました。
当社の対策としては、4、5月頃に1日ごとの交代勤務制にしました。お休みだった土曜日を出勤日にして、月水金と火木土に出るグループに分けました。リモートワークも物流現場は難しいですが、デスクワーク系の従業員はやっています。
また、現場では体温を測定したり、当社は社員が100人強、業者さんが500~600人いますので、マスクを準備し、必要に応じて業者さんにも融通したりいたしました。
そういう対応をしつつ、ほぼ物流は止めず、至急のものに関しても全て対応できました。そういう意味で、なんとかグループの物流は守れました。
――作業量などに大きな影響はありませんでしたか。
一般的に学参や児童書が売れていたので、そういう分野はわりと出荷する量がありましたし、集英社の『鬼滅の刃』など売れるものがあったので、この間に物流量が大きく減るということはなかったです。
――倉庫協議会の活動は影響を受けていますか。
協議会は開店休業のような感じです。今年は1月に例年行う新年のパーティーも兼ねた『出版流通白書』(出版流通改善協議会)の勉強会を1月24日に開いて以来、その後も5月に予定していた出版流通の勉強会を取りやめ、8月の総会も文書での報告になりました。
――ありがとうございました。
【PDF】2020出版倉庫ガイド特集
(文化通信9月14日付7~10面)
出版物の在庫を保管・管理して、取次などに出荷している倉庫会社。彼らのおかげで、出版社は物流部門を抱えることなく本づくりに専念し、急激な環境変化にも対応できる。出版倉庫が置かれている環境も変わる中、「ピンチのときこそチャンスあり」と話す出版倉庫流通協議会・友弘亮一代表幹事(昭和図書代表取締役社長)に、出版倉庫の現状や今後のテーマについて話を聞いた。また、東京都や埼玉県にある出版倉庫会社の一覧リスト、ひと目で分かる図解「出版倉庫会社の役割と機能」を掲載する。
協力:出版倉庫流通協議会