コミックを中心に年々、数百億円規模で増加傾向にある電子書籍市場(電子雑誌は減少)。2019年度は3700億円以上とされ、紙の減少分をカバーし、出版市場全体として5年ぶりのプラス成長に貢献した。市場規模がまだ800億円に満たない12年に電子書籍の制作会社を大阪で設立し、現在は自費出版の電子化や、企業の書類データ化など、電子化に関するあらゆるサポート業務を行うアットマーククリエイト(高畠直美社長)を取材した。
【堀雅視】
高い技術力で顧客から定評
社長の高畠さんは大学卒業後、丸善(現在の丸善雄松堂)に就職し、大学向けに学術関連の書籍やデータベース、外国の電子化した雑誌などを促進する営業を20年経験。この頃から電子化の必要性、拡大の可能性を感じていた。
退職後も、企業の電子書籍事業部の設立に携わるなど興味は強まるばかりで、ついに12年、同僚との共同経営で電子書籍制作会社アットマーククリエイトを設立した。
同社は、電子化主要フォーマットのEPUB、PDFに対応し、一般的な電子書籍から、丸善雄松堂、紀伊國屋書店の学術系電子書籍専用サイトへの配信用、さらにデータが現存しない作品でも裁断からスキャニング、画像修正し、デジタル化する。色あせた本でも新作のような色合いに修正でき、また、高精度のOCR(文字認識)ソフトを駆使し、画像から文字のみを抜き出してデータ化することも可能だという。
設立当初は、出版社に電子化を積極的に提案するも反応は鈍かったという。地道に業務を継続する中で顧客を増やし、今はスキルの高いスタッフが揃い、業務の幅も広がった。メディアドゥなど電子出版取次とも契約し、小規模出版社などは手数料を支払えば、煩雑な契約手続きや配信、売上集計を同社が代行する。
コロナ禍で電子化の需要増
昨今の電子書籍市場について高畠社長は「増加傾向の中、コロナ禍でさらに伸びた。リアル書店でも緊急事態宣言中に開けた店と休業店で大きく差がついたと聞くが、電子書籍は自粛の中、外に出なくても本が読めることで注目が高まった。図書館も休館し、読書手法が限られた」と分析。「昔、営業して『電子化はまだ早い』など断られた出版社から制作の注文が入るなどの現象が起こっている」と現状を語る。
顧客の9割が関東圏の出版社ということで、大阪でのビジネスに支障はない。さらに経済産業省が「コンテンツ緊急電子化事業」(緊デジ)を推進した11年~12年頃に同業が増加したが、供給過多になり、現在は東京を中心に各社展開しているものの、突出した競争状況にはないという。アットマーククリエイトへの依頼先からも「信頼して電子書籍の制作を頼めるところが見当たらない」との声も寄せられている。
良書は後世に残すべき
高畠社長は課題として「電子化の制作価格において、一時、社会問題にもなった自炊業者の料金がイメージとして残っている人や、『電子化は紙のオマケ』程度に考えている人には高額に感じられてしまう」と懸念するが、「出来映えの美しさ、技術力の高さを知ってほしい。電子化に関することならどんなことでも相談にのる。当社スタッフのスキルと設備があれば、あらゆる手法で解決に導けると思う」と自信を見せる。
「電子も紙も関係なく、優れた作品は後世に残していかなければいけない。放っておいたら絶版になる作品も電子で生き返らせ、文化の継承に貢献していきたい」と使命感を抱いていた。
アットマーククリエイト=大阪市中央区東平1―2―15―202