KADOKAWAは2021年2月25日、創業75周年記念事業として、学習まんがシリーズ「世界の歴史」全20巻を一挙刊行する。監修の東京大学・羽田正名誉教授が提唱する新しい世界の歴史の捉え方「グローバル・ヒストリー」に基づき、同時代の横のつながりを重視した。全体のページ数は4000㌻を超える。カバーイラストはスタジオジブリで「魔女の宅急便」などを手がけた近藤勝也氏が描き下ろした。22年から高校の授業で必修となる科目「歴史総合」にも対応している。
【成相裕幸】
「グローバル・ヒストリー」を重視
同社は2015年6月に、角川まんが学習シリーズ「日本の歴史」を刊行。同社によると、4年連続で紀伊國屋書店の売り上げ第1位(紀伊國屋書店チェーン「学習まんが日本の歴史」ジャンル16年1月~19年12月)を獲得。累計部数560万部を突破し、人気シリーズとなった。
「日本の歴史」刊行直後から、読者などから「世界の歴史」刊行への要望も多く寄せられていた。それに応えるため、数年前から刊行の準備を進めてきたという。
横のつながり俯瞰できる作りに
今回の「世界の歴史」シリーズの特長は、他社の学習まんがとは一線を画した編集にある。例えば、これまでの類書は1巻ごとに1つの地域の歴史を順番にたどる形式が多く見られたが、「世界の歴史」は地域ではなく年代で区切る構成にした。
同時代に世界各地で何が起きたのか、横のつながりを俯瞰できるようにし、さらに1冊の中に4つの地域の歴史が入るように作った。「これまでの教科書(的な通史)を組み直すところから、羽田名誉教授とディスカッションを重ねた」(石井康予・角川まんが学習シリーズ編集長代理)と振り返る。
それを象徴するのが、2巻「古代社会と思想家たち」(紀元前600年~紀元元年)の表紙に描かれている歴史上の重要人物、ブッダ、ソクラテス、孔子の3人だ。
彼らが実際に出会った史実はないが、「2巻で扱っている時代は、ちょうど人類社会が都市化し、哲学や思想が充実してくる時代だった。しかも、それが世界の各地で同時に起きていたことが、この巻を読めば分かる」(石井氏)と表紙に込めた思いを語る。同時代の枠組みでとらえることで、読者の理解も進みやすいという。
また、昨今の歴史学習では近現代史が重視されていることから、シリーズの構成は全20巻のうち近代(1750~1890年)3冊、現代(1890~2020年)8冊と、ラインナップの半分以上を近現代史が占めている。
さらに、各巻の冒頭にある「もしもまんが」も特徴的だ。その巻に登場する重要人物たちが、「もしも〇〇をしたら」という仮定で描かれている。
「子どもたちにとって全然知らない世界の歴史の登場人物に、まず親しみを持ってもらう。『もしも…』でふんわり理解してもらい、本編に入れるよう工夫している」と狙いを語る。ちなみに、2巻の「もしもまんが」は「もしも世界の思想家や宗教家がプロレスで対決したら…」だ。
新型コロナなど最新情報も収録
これまでの学習まんがでは触れられることの少なかった19世紀のイスラーム改革や、アジアの近代化の過程なども、このシリーズでは丁寧におさえた。
最終巻となる20巻「現代文明とグローバル化」(1990~2020年)では、新型コロナウイルス感染症、そして黒人差別反対運動(BLM)など、今年に入り大きく世界を揺るがせている出来事も収録。「今、世界は歴史的ともいえる大きな転換期を迎えている」と、最新の情報もしっかりと載せ、読者に届ける。
説明文は総ルビで、小学生から読める。新学習指導要領にも対応し、高校教科書に沿った作りで高校生も読者層になるが、石井氏は「歴史観がアップデートされているので、大人の学び直しにも、とても適している。子どもが読むのとはまた違った面白さや深さがあるのではないか」と話している。
四六判、各巻224㌻(資料13㌻、カラーまんが21㌻、モノクロまんが187㌻)。全20巻セットは本体1万9000円、各巻は同950円。電子版も同時に発売する。