京都大学学術出版会(京都市)は10月10日、専門性を越えて広く知の世界に触れる読書の実践論、『学術書を読む』を初刷4000部で発刊した。
著者は同出版会の鈴木哲也編集長。好評を博した前著『学術書を書く』(2015年刊)では、知的営みの細分化による「専門外への無関心」の中、専門外の読者に向けて学術書を書くための方法論と、「書く」ために「読む」ことと指摘した。
今回発刊した『学術書を読む』では、専門外の学術書を読む意味や具体的な方法論とともに、専門外の学問が学びにくくなっている社会状況を歴史的な経緯を含め、まとめた。
第1部は、学術書を読む意味や楽しさとともに、しばしば学術書に対して評されるわかりやすさ・わかりにくさという社会規範を論考している。
第2部は、4つのカテゴリーから、自分が関心を持っていない本に関心を向け、そこから信頼できる本を選んでいく方法論を説く。
第3部は、現在の大学教育制度のもとで専門志向が強まり、専門外の学問分野を学びにくい現状を踏まえ、学術雑誌への掲載数など数での評価が優先され、知の世界、学びの環境が狭くなっていることを課題に挙げ、自身の専門外にも広く関心を持つことで、さまざまな社会的課題に対し共通の議論ができると指摘する。
鈴木編集長は、「学術的な学びに親しんでほしい学生はもとより、学校の先生や医者、政治家、経営者など知的リーダーとして求められる人にこそ読んでほしい。書店店頭では、読書論や科学論、文章技術などのコーナーで、『書く』『読む』合わせての展開をお勧めする」と話している。
【櫻井俊宏】