京都を舞台にした小説の中から「もっとも地元の人に読んでほしい本」を選ぶ第8回京都本大賞は、大石直紀『二十年目の桜疎水』(光文社文庫)に決定した。
刊行1年以内が条件で、今年は27の候補作から京都の書店、販売会社らで組織する実行委員会が同作と、綿矢りさ『手のひらの京』(新潮文庫)、浅田次郎『活動寫眞の女』(双葉文庫)をノミネート。3作品を府内の書店店頭(1票5ポイント)、または京都府書店商業組合の専用サイト(1票1ポイント)から一般読者の投票を経て選ばれた。
『二十年目の桜疎水』は、ある事故をきっかけに別れた恋人の秘密を描いた表題作、ほか日本推理作家協会賞(短編部門)も受賞した『おばあちゃんといっしょ』など全6編のミステリ短編集。大石氏は人気の刑事ドラマ「相棒」劇場版のシナリオなども手掛けている。
絶望の淵から救われた受賞
10月30日、京都市内で開かれた授賞式で大石氏は同賞について「書店で非常に大きなスペースで展開されていてうらやましく見ていた」とし、受賞作については「自信作だったが、3年前、単行本で出したときはさっぱり売れなかった。この賞過去7回は、話題作ばかりで、思いがけない受賞だった」と驚きを表した。
また、「小説家としてはもう厳しい、廃業も覚悟していた矢先の受賞で、実行委員の方々、投票してくれた読者には足を向けて寝られない。絶望の淵から救ってくれた神様のような存在」と感謝の言葉を述べた。
洞本昌哉実行委員長(ふたば書房)は、「ドラマのライターをされていることもあり、読んでいると映像が浮かんでくる。『京都を長編で描くのは難しいから短編にした』と聞くが、それが読みやすさを生み、得票に繋がったのでは」と選評。「ほかのノミネート、著者のビッグネーム2作品を抑えての受賞は見事」と称えた。
同日、10月に発表された「京都ガイド本大賞」と「同リピーター賞」の授賞式も行われた。同賞は、京都の観光関連本が供給過多に陥っている現状を踏まえ、府の書店員らが「読者のガイド本選びの目安として、自信を持って推薦できる、また全国書店の仕入れの指標」となることを目指して2014年に創設。出版社からのエントリー形式で書店員らが投票する。
京都ガイド本大賞は『芸妓さんが教える京都ええとこ映えるとこ』
『芸妓さんが教える京都ええとこ映えるとこ』で大賞を受賞したJTBパブリッシングの長谷川奈緒美編集デスクは「コロナ禍で取材がストップするなどエントリーにぎりぎり間に合った思い入れの深い作品。芸妓さんのセレクトで庶民的な店から料亭クラスまで、また秘密の映えるスポットも紹介している。首都圏でもプロモーションしていきたい」。
リピーター賞『京都滋賀うまいラーメン』
リピーター賞の『京都滋賀うまいラーメン』を刊行するリーフ・パブリケーションズ・加藤純子編集局長は「書店で展開されることで、読者が書店に足を運び、温かい一杯を食べにお店に行って、コロナで沈みがちだった街が再び盛り上がってほしい」とそれぞれ喜びを語った。
【堀雅視】