㈱成文堂は新型コロナウイルス感染拡大によって、大学での対面による教科書販売ができなくなり、急遽、わずか2週間ほどで簡易通販サイトを立ち上げて乗り切った。さらに今後を見据え、来春に向けて本格的なショッピングサイトを構築中だ。
同社の創業は戦後、初代の阿部義任氏が1947年に早稲田の地で古書を販売する書店としてスタート。その後、新刊書の扱いや出版活動を始めた。出版部は改訂を含めて年間100点ほどの法律論文集や大学教科書を刊行している。
書店は現在、早稲田大学に面した早稲田正門店(新宿区)、国士舘大学本校内の国士舘店(世田谷区)、同大学町田校舎内の鶴川店(町田市)、同大学多摩校舎内の多摩店(多摩市)、愛知学院大学内の日進店(日進市)、同大学新校舎内に今年オープンした名城店(名古屋市)の大学内店舗を運営する。
さらに、路面店として巣鴨駅前店(豊島区)、南浦和店(さいたま市)、国会議事堂店(千代田区)、フランチャイズのナカワデ店(豊島区)を展開している。
書店事業は日本出版販売や大学図書などの取次と取引し、国士舘大学ではすべての教科書を一手に扱っているほか、愛知学院大学では他の大手書店とともに教科書などを販売。大学生協がある早稲田大学では自社出版部の法律書と語学書の一部を販売している。
今春の大学教科書販売は好調
大学の教科書は安定している反面、近年は少子化に加えて科目の細分化によって1クラスの受講者数が減少。さらに教員がネットで資料を配付するだけで済ませるなど、教科書販売にも逆風が吹いている。
それでも、今春は感染症の拡大によって授業開始時期が大幅に遅れ、リモートによる授業が続いたにも関わらず、教科書の売れ行きは良かったという。
「他の出版社に聞いても同様ですが、対面授業がなく不安な学生さんが、とりあえず教科書は買っておこうと思ったようです」と営業部・松野清司営業課長は話す。
大学から急遽オンライン販売の要請
書店部門でも、巣鴨などの路面店は周囲の大型書店や駅ビル内の書店が休業したこともあり、「街には人影がまばらなのに、怖いぐらいにレジにお客様が並びました」という。
急に通常以上の売れ行きになったため、店舗スタッフは補充作業などに追われたが、「本が売れないと言われますが、改めて人は本を読むのだと実感しました」と松野課長。
しかし、学内店舗での教科書販売は大きな試練にさらされた。
4月初旬に同社が一手に教科書を販売している大学から、授業をリモートにして学生を学内に立ち入らせないことにしたため、教科書を通信販売するよう求められた。
ネット販売を行っていなかった書店部門は、出版部の基幹システムやWeb制作を担当する光和コンピューターに相談。4月16日にリモートで打ち合わせを行い、簡易版で対応することにして、5日後には光和側が提案書を提出、5月14日にネット販売を開始した。「大学と取り決めたギリギリのところでオープンできました」と松野課長も胸をなで下ろした。
簡易サイトで繁忙期を乗り切る
簡易サイトは2つの大学用にそれぞれ立ち上げ、同社が扱う教科書のリストを掲出し、学生が必要な教科書を選んで住所など必要事項を記入するとメールが配信される仕組みだった。
注文リストから各店舗の売場でピッキング作業を行い、不足している書籍は出版社に発注。揃えた教科書を箱詰めして代金引換で発送する作業を行った。開始当初は1日の注文件数が1000件に達したこともあり、スタッフが5月の連休も出勤して対応した。
また、教科書のリストがデータベースになっていなかったので、新たに教科書が決まるたびにPDFのリストをホームページにアップ。1校だけでこの作業が30回ほど発生したという。それでも6月までにはほぼ販売を完了することができた。
本格通販サイトを来年3月開設へ
同社はこれを機に本格的な通販サイトの構築を決めた。
今後も同様の事態が発生する可能性があるとともに、これまでも学生が長い行列を作って教科書を購入する光景を疑問視する声があったためだ。教科書の通販サイトを運営する競合の大手書店もあり、今後は通販機能が必要になると判断した。
光和コンピューターとは11月20日にキックオフミーティングを持ち、2021年3月までにサイトを開設することを決定。検索できるデータベースやショッピングカート機能などを実装し、「独自に通販できる体制を整えます」と松野課長は説明する。
【本紙増刊B.B.B 12月号掲載】
株式会社 成文堂
創業:1947年
会社設立:1960年
資本金:1000万円
代表者:阿部成一
従業員:30人
所在地:〒162-0041 東京都新宿区早稲田鶴巻町514
電話:03-3203-9201