2020年は出版業界もコロナ禍に揺れた。雑誌の休刊が相次ぎ、広告売り上げが激減した一方で、多くのお客が来店した書店もあった。また、出版社のオンライン営業が一気に進む契機ともなった。このほか、出版流通危機や、4月に迫った総額表示義務化への対応、電子書籍の海賊版対策など、さまざまなニュースがあった。
〈重大ニュース 新聞業界〉
・新聞業界2020年重大ニュース 新型コロナ感染拡大、新聞社・販売店の経営などに影響
【文化通信 編集部】
①新型コロナウイルス感染症拡大で出版業界にも大きな影響
新型コロナウイルス感染症の拡大によって、出版業界もさまざまな影響を受けた。4月の緊急事態宣言発令時は、取材などができなくなり雑誌の休刊や合併号が相次いだほか、広告売り上げが大幅に減少した。
書店は休業要請の対象業種に含まれなかったものの、大型商業施設に入居している書店は休業を余儀なくされ、都心にある大型書店は在宅勤務が増えたことで客数が大幅に減少した。一方で、郊外型書店や地域の最寄り書店には多くの人が訪れ特需のような現象も見られた。
全体で見ると、大手取次調べの書店売上は、4月は対前年で大幅なマイナスになったものの、5月以降はプラスで推移するなど、出版物や書店が人々に求められていることも改めて実感させられた。
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②書店向けWeb商談会など出版営業DXが進む
出版社は書店などに対する対面営業が難しくなったことから、オンライン会議システムなどを利用した営業活動を開始。複数の出版社が参加する「書店向けWeb商談会」も開かれるなど、出版営業のDXが進行した。
初の「書店向けWeb商談会」は6月に開かれ、出版社49社が出展し、書店員104人が参加。さらに10月に開いた「書店向けWeb商談会2020秋」には、出版社など149社が出展し、書店などからの参加者数は235人に達し、商談回数は779回、商談金額は2043万2238円(上代)の規模になった。
個別の出版社では、KADOKAWAいち早く6月からオンライン会議システムを利用した専用窓口を開設して書店へのオンライン営業を開始。また日経BPは9月に書店向けオンライン企画説明会を開催し、書店向けのYouTubeチャンネルを開設、個別書店とのオンライン商談の場を常設した。
中央公論新社も9月中旬からエリア別の特約書店会会員書店向けオンライン説明会を開催し、オンラインによるブロックごとの説明会や商談は今後不定期で開くという。
こうした動きは感染症の対策として行われたが、コストをかけずに多くの取引先とコミュニケーションできることや、随時実施できることなどメリットも多く、今後、リアルな営業活動が再開されても続くとみられる。
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③大手取次各社が出版社に物流コスト負担を要請
大手取次の日本出版販売(日販)とトーハンは、物流コストが上昇する中で、出版社にコストの一部を負担するよう求めた。これら内容は、日販は10月に開いた「NIPPAN Conference 2020」で、トーハンは11月に開いた「出版社向けのオンライン施策説明会」で説明した。
トーハンは2020年6月に雑誌の超過運賃負担金制度改定の要請を開始。また、10月からは書籍の物流・運賃協力金要請を出版社2050社に対して始め、近藤敏貴社長は会見で「売上規模、ジャンルに関わりない一律の基準でお願い」していると明らかにした。
日販も「超過運賃」改定のお願いと、継続して「書籍物流協力金」の申し入れを進めている。奥村景二社長はこの中で出版流通改革のタイムリミットは2年と表明した。
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④2021年4月の総額表示義務化への対応で波紋
出版団体が開催した勉強会で、財務省の担当者が価格の総額表示義務化について、「消費税転嫁対策特別措置法」が延長されず2021年3月末で終わる前提で進めるよう説明したことが、出版業界に波紋を広げた。
書籍はほとんどが税抜きの本体価格を表示しているため、総額表示が義務化されると、カバーの刷り直しなどが発生する恐れがある。
財務省担当者は「スリップでの表示など、何らかの形で税込価格が表示されていれば総額表示義務を満たす」との考えを示しているが、スリップを廃止している出版社も多く、特措法の期限切れに向けて、総額を書籍本体に表示するか、スリップに表示するか、帯などに表示するかなど、出版社によって対応が分かれている。
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⑤書店向けポータルサイト「BooksPRO」がオープン
日本出版インフラセンター(JPO)は3月10日、JPRO(出版情報登録センター)に登録された240万点の既刊情報に加え、近刊情報や販促情報を全国の書店に発信する出版情報ポータルサイト「BooksPRO」をオープンした。
利用書店は10月時点で1657店舗に達し、JPROへの出版情報登録も活性化し、登録する出版社は1859社、登録件数は250万件に達した。近刊情報の登録点数も取次による新刊「委託配本」に占める割合が目標だった80%を超えるまでに増えた。
出版社が登録する刊行前の書籍情報を書店に提供するインフラが整ったことで、今後、書店の自主的仕入れなどに活用され、市場にマッチした商品供給や、過剰な返品を抑制することなどが期待されている。
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⑥コミックス『鬼滅の刃』が空前の大ヒットに
集英社のコミックス『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)が空前の大ブレイクとなった。2020年12月に発売されたコミックス最終巻の23巻は295万部を発行、全巻累計で1億2000万部を突破している。また、映画「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」は公開1カ月ほどで興行収入が200億円を突破するなど、日本映画史上でトップクラスの規模に拡大した。
この作品は『週刊少年ジャンプ』で16年に連載が始まり、19年春にアニメ放映が始まったことで人気が急上昇した。20年も新型コロナウイルス感染症拡大の外出自粛期間の巣ごもり需要もあり、売れ行きが伸び続けた。
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⑦電子図書館の利用・導入進む。著作権法改正も議論
新型コロナウイルス感染症拡大によって、多くの公共図書館が閉館などの措置を執ったことから、電子図書館の利用と、新たな導入が増加した。
図書館流通センター(TRC)の電子図書館システムを導入している図書館の4月の電子書籍貸出実績は、前年同月比323%増、5月も同426%増と大幅に増加。公共図書館や大学図書館などに電子図書館サービスを提供する日本電子図書館サービス(JDLS)は、導入館が約8カ月で145館増加し300館に達したと発表した。
一方で、こうした状況を背景に、公共図書館がインターネットで資料を利用者に提供することを可能にすることが議論され、21年度の著作権法改正に盛り込まれる見通しになっている。
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⑧KADOKAWAの新拠点「ところざわサクラタウン」がオープン
KADOKAWAと角川文化振興財団は11月、埼玉県所沢市に大型文化複合施設「ところざわサクラタウン」と「角川武蔵野ミュージアム」を全館開業した。イベントスペース、ホテル、ショップ、レストラン、ミュージアムなどを展開するほか、新オフィスや書籍製造・物流工場も備える。
新オフィスと東京・飯田橋の東京キャンパス、在宅勤務を行う自宅などの3拠点をワークプレイスとし、「仕事内容に合わせて働く場所を自由に選べる働き方=ABW」を確立する。のま、書籍製造・物流工場では、最新鋭のデジタル書籍製造設備を備え、適時適量製造を実現。倉庫機能を従来のストック型からフロー型に変え、最新のマテリアルハンドリング機器による適時適量出荷に対応する。
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11月10日
⑨海賊版のリーチサイト規制などが法制化
コミックなどの海賊版対策として、「著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の一部を改正する法律」が6月5日に成立し、違法にアップロードされた著作物へのリンク情報を集約した「リーチサイト」の規制や、侵害コンテンツの違法ダウンロード違法化を出版物などに拡大するなど法改正が行われた。
海賊版サイトによって電子コミックはもとより、紙のコミックス市場にも被害が及んでおり、対策が求められていた。当初は違法サイトへのアクセス自体を規制するアクセス制限(ブロッキング)も議論されていたが慎重論が多く見送られた。
リーチサイト規制は20年10月1日から,侵害コンテンツのダウンロード違法化は21年1月1日から施行された。
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⑩「ギフトブック・キャンペーン」約1500店でフェアなど展開
始めての試みとして、本を贈ることを提案する「ギフトブックキャンペーン」が、11月1日「本の日」から2カ月間にわたり、全国の書店など1500店で展開された。
著名人34人が贈りたい本を選んでコメントを寄せた『ギフトブック・カタログ』を書店などで販売し、店頭で1000円以上購入すると応募できるプレゼント企画を実施。本を贈ることと、書店に足を運ぶ楽しさをアピールした。
文化通信社が企画・実施し、「本の日」実行委員会(大垣守弘実行委員長)や出版社各社、取次各社が協賛。新型コロナウイルス感染症拡大で店頭イベントが制限される中、「本の日」のメインイベントとしても位置づけられた。
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