楽天ブックスネットワークは、書店向け書籍・雑誌の仕入から出荷業務までを日本出版販売(日販)に業務委託するなど、両社間の協業範囲の拡大について検討を開始すると発表した。また、同時期に大手取引先の丸善ジュンク堂書店が仕入れ先を他の取次に変更することを出版社に通知。これらの動きと今後の経営見通しなどについて川村興市社長に聞いた。
【聞き手=星野渉】
取次事業継続するための選択
――日販と協業を拡大する狙いは何ですか。
当社は旧大阪屋と旧栗田出版販売が経営統合して以来、赤字体質が続いてきましたが、これからも取次事業を引き続き運営していけるように黒字転換させるため、日販との協業拡大などを進めます。
これまで取次としての体裁を整えるために物流施設をはじめ、システムインフラについても大手取次と同じ仕組みを維持してきましたが、自らインフラを維持することと業務委託とを比較した結果、日販との協業をさらに進める方がローコストで取次事業を継続できるとの結論に至りました。
これまでも返品業務は出版共同流通㈱に、新刊送品業務は日販に委託してきましたが、これからは一般書店向けの書籍・雑誌の仕入れから送品までを日販に業務委託します。ただ、書店への請求業務など商流や、これから注力していくネット通販(EC)向け仕入窓口の機能は自社に残します。
――書店向けサービスでも日販と協業を進めるのですか。
例えば書店向けの客注サービスとして、当社の「Front客注サービス」と日販の「本の超特Q! QuickBook」とそれぞれありますが、相互活用や将来的な統合も視野に、検討を始めることで合意しています。
東西本社一本化、図書館事業終了 経営改善進み来期から黒字化へ
――今回の丸善ジュンク堂書店、そして昨年9月には明林堂書店が御社から他取次に帳合を変更しましたが、こうした大手取引書店による取引変更の影響はいかがですか。
当社にとって採算に合わない取引条件を見直すなかで、残念ながら取引変更に至るケースも発生しました。ただ、取引変更によって売上高は減少しますが、むしろ経営的には筋肉質になります。
取引変更や不採算事業の整理などによって今年度までは赤字を見込んでいますが、一方で昨年来、巣ごもり需要でECの取り扱いや郊外型書店の売り上げが好調で、今年に入ってからは単月黒字を達成しています。経営建て直しは今年度で一段落し、22年度からは黒字経営を続けられる見通しです。
――どのように経営改善を進めているのですか。
20年度当初の人員は200人ほどでしたが、20年度は20人、21年度も30人ほどが楽天グループ他社での勤務などで減少します。また、大阪と東京の2本社体制も、リモートワークの導入など勤務形態を見直すことで、今年3月末で大阪本社(大阪市福島区)を閉鎖し、兵庫県川西市の楽天フルフィルメントセンター内「関西流通センター」に関西オフィスを開設して統合します。
長年にわたって採算割れしてきた図書館向けの図書納入やマーク提供といった図書館事業も22年3月末で終了予定です。くわえて不採算取引の改善も進んだことから、経常的には黒字化できます。
――売り上げ拡大策はいかがですか。
経営改革を進めながら、一方でEC向けの売り上げを伸ばしていきます。リアル書店との取引規模は維持しながら、現在30%程度のEC売上比率を60~70%ぐらいに引き上げます。
他社にない強み生かし、書店向けサービス提供へ
――他の取次にない強みは。
当社親会社に楽天ブックスがあり、他の取次会社に比べた強味はECだと考えています。
昨年11月には西日本の取引先書店向け在庫などを置いてある「関西流通センター」に、ソーターなどEC用の出荷設備を増強したことで、楽天ブックスの翌日配送「あす楽」の西日本での対応エリアを拡大することができ、売り上げが拡大しています。
こうしたECのインフラを使って、今後はリアル書店向けの客注や商品企画、ポイント連動などのサービスを提供していきます。こうした当社ならではの強みを生かしたサービスについては、他の取次各社にも利用してもらい、業界のインフラとして多くの書店に活用していただきたいと考えています。
川村興市(かわむら・きょういち)氏 1959年11月1日東京都生まれ。82年慶應義塾大学経済学部卒、同年日本電気入社、2000年カルチュア・コンビニエンス・クラブ入社、06年MPD常務取締役BOOK商品本部担当、16年楽天入社(現任)、18年大阪屋栗田(現楽天ブックスネットワーク)専務取締役、20年楽天ブックスネットワーク代表取締役社長
楽天ブックスネットワーク
かつて総合取次で売上高第3位だった旧大阪屋は2014年に債務超過に陥っていることが明らかになり、楽天と大手出版4社(講談社・小学館・集英社・KADOKAWA)、大日本印刷(DNP)が共同で資本参加し、14億円を出資した楽天が35・19%を保有する筆頭株主となった。
一方、同4位だった栗田出版販売は15年6月26日に東京地方裁判所に民事再生手続き開始を申し立て、16年4月1日付で大阪屋と栗田出版販売の経営統合によって㈱大阪屋栗田が誕生。大阪屋栗田は18年5月に第三者割当増資を実施し、楽天の出資比率が51・0%となった。19年11月に楽天ブックスネットワーク㈱へ社名を変更した。
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