【学参・辞典特集】八重洲ブックセンター京急上大岡店 学参コーナーの「輪郭」を融合した「町の本屋」

2021年2月24日

「地域密着」をかかげる安藤店長

 

 神奈川県内の巨大ターミナル横浜駅から電車で10分程度、京浜急行電鉄線と横浜市営地下鉄線の「上大岡駅」に直結し、ゆめおおおかバスターミナルにも隣接している京急百貨店。その6階フロアに約330坪でかまえるのが、八重洲ブックセンター「京急上大岡店」だ。京急百貨店は今年10月で25年を迎えるが、オープン当初から入店している同店も「町の本屋」として長く地元に根づいた存在になっている。

 

立地も良く、多くの人が来店

 

 上大岡駅は京急電鉄沿線で横浜、品川に続いて乗降客数が多い。そして、ここは人が「住む町」でもあり「訪れる町」でもある。駅周辺には住宅地が広がる一方、商業施設が集まったにぎわいも見られる。そんな上大岡駅に直結した京急百貨店には平日、土日祝日問わずたくさんの人が来店する。

 

 それに合わせて、6階の書店も毎日が大にぎわいだ。平日の午前中は比較的年齢層が高い地元の人たちが、夕方以降は通学・通勤客の来店も増える。土日祝日になるとそこに地元や沿線に住む家族連れも加わり、店内には本を求めるお客の長い列ができる。

 

 現在、上大岡店の陣頭指揮をとる安藤厚志店長は2011年から15年まで店長を務め、18年から再びこの店を任されている。安藤店長によると、同店は「学参はもちろん、総合的な売り上げが高い。全国1位の商品もよく出す」という。それも「立地のメリットが大きい」と話すが、店づくりにかける思いを聞くと、決して場所だけのおかげでないことが見えてくる。

 

 広い店内のうちでも、比較的大きなスペースを割いている学参売り場。小学生向け、中学生向け、高校生向けに分け、棚も計45本ほど使っている。しかし、安藤店長が仕掛ける売り場は単なる「学参コーナー」ではない。「学参だけの品ぞろえ、構成では一つの色に染まったエリアとなってしまう。目指しているのは『輪郭』を融合させること」と明かす。

 

 実際に売り場を見ると、幼児・児童向けコーナーから小学学参、中学学参、高校学参と棚が展開され、就職や資格関連の本、ビジネス向け本の棚へと続く。「(子どもから大人に成長していく)通過地点として学参売り場がある」というイメージだ。

 

 また、地元に根ざした百貨店にある本屋らしく「地域密着」も大きなテーマにしている。「四半世紀も続けているので、小さい時に来ていた地元の子どもたちも大人になり、その子どもが来店することもある。地元で暮らす2世代に通過してもらうような棚づくりを」と考えている。

 

 学参の棚は「1年を通してお客さまの需要に応えられるよう強弱をつけた展開」を心がける。同店では小学学参と高校学参のシェアが高い。神奈川は昔から教育熱心な県であり、上大岡駅周辺には進学塾が大小含めて約80件もある。そのため、ここも地域密着がポイント。「教育熱心な家庭の需要に応えられる品ぞろえ」を欠かさない。

 

児童書コーナーから小学学参に展開

高校学参から奥のビジネス向けへとつながっていく

 

学参の売り上げはトップクラス

 

 八重洲ブックセンターの各店の中でも、学参の売り上げはトップクラス。ただ、「コンテンツは変わっても、やり方や押し出し方は大きく変えない」という。その中で、例えば「中学校の学習指導要領改訂」といったトピックに合わせて「棚の基本構成を変えないことで、そのコンテンツが相対的に浮き上がるような展開」をする。

 

 その根底にあるのもやはり、地域に根ざした本屋であるということ。「書店に通う小学1年生が2年になったとき、違和感のない環境でその年の自分の本を探せるようにしたい」ためだ。「どこに何の本があるだとか、よく知っている人がその本屋の顧客になる。特に私たちのような地域密着の店舗には、それが求められる」。

 

学参が知的な継承の機会に

 

 「本屋にとって学参は『必備図書』。新しい情報や商品の流通状況をしっかりと把握しておかなければならない。商品も潤沢に、求める人にちゃんと行き渡るような態勢を」と出版社には求める。

 

 また、多くの人に使われてきたロングセラー商品は「象徴的なかたちとして残ってほしい」とも。父親が使っていた学参を子どもも手に取り、喜ぶ姿を見たりする。「親から子へ、学参が連綿と続く知的な継承の良い機会になってほしい」と期待する。

 

 「明日の試験に間に合うような本だけでなく、知る喜び、学ぶことの楽しさを感じさせるような本をぜひ作ってほしい。大人への過渡期に触れる学参というテキストには、そういった役割もある」という思いを、本屋の立場から強くしている。           

【増田朋】