【学参・辞典特集】 「2021年度新学期 学参・辞典勉強会」 協働し、最適な学参提案を

2021年2月24日

 学習参考書協会と辞典協会の共催による「2021年度新学期 学参・辞典勉強会」が2月8日から、学習参考書協会のホームページで動画配信されている。3月31日まで。例年、東京や大阪の会場で開かれていたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、今年はインターネットによる配信で行うことにした。配信コンテンツは、赤阪泰志氏(世界思想社教学社、元ちくさ正文館書店ターミナル店)の「店頭販売の経験から」と、石井塁氏(旺文社教育情報センター)の「コロナ&入試改革!2021年大学入試はこう行われる!」の講演など。2氏の講演要旨は次の通り。

 


 

旺文社情報教育センター・石井 塁氏

「コロナ&入試改革! 2021年大学入試はこう行われる!」

共通テスト開始とコロナの影響は

講演する石井氏(学参協会HPより)

 

 30年間実施されたセンター試験に代わり、共通テストが導入された大学入試制度。「入試改革」と銘打たれていたものの、実施までに二転三転したこと。そして新型コロナウイルス感染症の影響で、2020年3~5月に学校が一斉休校となったこと。今回の大学入試で起こったことは「この2点に尽きる」と石井氏は言い切る。

 

 まず、共通テストへの移行に伴う大きな変更として、思考力系の問題(資料読解型・課題解決型・対話場面型)が全科目で出題されると紹介。加えて、英語では長文、リスニングの重要度が大きくアップ、国語は現代文で実用的な文章(契約書・条例・提案書など)も題材となるという。

 

 そして、新型コロナの影響として、3~5月に一斉に学校休校、6月には段階的に再開されたものの、休校分を取り戻すため夏休みは8月に2~3週間のみとなり「学業の遅れという事態が発生」したとする。

 

 今年から「学校推薦型」「総合型選抜」と呼び名が変わった推薦、AO入試についても各種検定試験やスポーツの大会が続々と中止、延期になったことから、受験生に大きな影響があったと振り返る。

 

 また、文部科学省が進めていた「成績提供システム」についても説明した。英検やTOEFL、TOEICなど外部の検定試験を入試に利用する際、「国が代わりに受験生の外検の成績を回収して、大学にまとめて提供してくれる」システムの導入が見送りになったこと、外検自体もコロナ禍で春先の実施が中止されたことから、結果的に外検利用入試の志望者は「大幅に減っている可能性がある」と分析する。

 

 次に、共通テストを振り返り、前年の最後となったセンター入試の際に制度の変更を考慮して浪人せずに現役で入学した受験生が多く、今年の共通テストは既卒生の受験が減少。一方、現役生の志願者数は前年並み。そして平均点は大幅に下がるという予想に反して、前年並みであったという。

 

 受験生としては、現在のコロナ禍の状況では「安全志向、地元志向」が高まり、かつ共通テストで高得点を取れた層では「都市部の難関大学への強気の出願」が見られるかもしれないとする。

 

 しかし、来年以降はコロナによる経済状況の悪化がさらに影響し、「安全志向、さらには大学進学そのものを断念する受験生が多く出る可能性がある」と見ている。

 

 そうした状況において、高校学参の売れ行きはどうだったのか。取次と出版社へのアンケート結果から、学校休校期は学びが停滞し、「高校学参の売り上げは減」。新入試で対策ニーズがアップし、共通テスト対策書は「大幅増」。外部検定は春先の実施中止で「対策書は大幅減」。総合型・推薦型の対策書は学業の遅れと新入試回避で「堅調」としている。

 

 来年度の注目ポイントとしては「新型コロナの影響が続いて基礎学力に不安」「共通テストは思考力系の問題のニーズが高まる可能性も」「英語の長文とリスニングは必ず伸びる」「外部検定を利用する大学は拡大傾向」であり、その影響が学参の売れ行きにも現れると語る。

 

 石井氏はさらに、学参の未来について、「子どもの数の減少」「学びのICT化」が進んでいること、また、文部科学省がコロナ以前から「令和の日本型学校教育」として、「個別最適な学びと協働的な学び」を掲げていることから、「学参の個別最適化」を提案。今以上に受験生のニーズに応えて「商品の検索性(店頭で生徒一人ひとりが求める内容の参考書を出版社ごとに検索しやすくする、など)」を高める、「キャンペーンや入試情報とからめた提案型の販売」などが求められると呼びかける。

 

 そのうえで、各社ばらばらではなく、協働してこうした「入試情報」「販売データ」「地元情報」「経験知」を発揮することで、受験生に個別最適な学参を提案し、「学参全体が盛り上がっていけば良い」と結んでいる。

 


 

世界思想社教学社、元ちくさ正文館書店ターミナル店 赤阪泰志氏

「店頭販売の経験から」 ともに棚づくりをする意識を

講演する赤阪氏(学参協会HPより)

 

 書店で学参を担当するのは難しいことなのだろうか。赤阪氏は「どのジャンルも専門知識が必要であり、学参が特に難しいわけではない」とする。しかし、就職してすぐ担当することになった書店員との対話から、「最低でも1年はやってみて、年間の大きな流れを捉えることが必要だろう」と語る。

 

 そのうえで、売れ筋の定番商品などについては出版社や取次のフォローを受けつつ、新学期や定期試験の時期、夏休み前といった「学習のカレンダーに応じて、勉強の動機づけが起こるタイミングに合わせてコーナー展開をし、来店した児童や保護者、生徒にアピールできる工夫を考えても良いのではないか」とみる。

 

 具体例として、赤阪氏は「2021年度から始まる大学の総合型選抜の参考書が3点平積みされていた書店」を挙げる。新刊の参考書を見た書店担当者が新入試制度に関連した商品だと気づき、「置いてみないと、せっかく出したのにもったいない」と平積みにしたという。「こうした細かなアイデアの積み重ねが購買者へのアピールに、ひいては他の店との差別化にもつながる」と指摘した。

 

 また、自身が書店員時代に行っていたこととして、新刊の「はじめに」と「目次」をチェックすることを勧める。それは「その本に込められた熱い思いが伝わってくる」からであり、営業で訪問したある学校の先生も同様に考え、その本の良し悪しをそこで判断していたという。棚整理の合間や休憩時間に目を通すことを1年続ければ、「学参に詳しい担当者として認められるようになる」ということだ。

 

 さらに、客注を捉えなおすことも必要ではないかと提案。学習塾にとっても受験生にとっても、注文した商品がいつ搬入されるかは重大な問題。期日までに確実に顧客に届けることは書店員にとって大きなストレスだが、それをきっかけに顧客と深くコミュニケーションをとることで「一度きちんと対応してくれるとわかった店のリピーターになってくれる」と考える。

 

 赤阪氏が勤務していた書店は、検定教科書の取り扱い店だったことから、学習塾の講師が生徒と同じ教材を求める場合も多かったそうだ。「そういう人たちの客注を拾っていくと、口コミが広がって先生たちが集まるお店になり、売り場の雰囲気も変わっていく」。

 

 また、一般学参を使って指導する塾の講師となじみになれば、「ほぼ指定店のようにしてくださって、生徒さんにとっても、塾にとっても、もちろん書店にとってもメリットのあることになる」。時には「予備校のある有名講師にお話をうかがっていたら、高校生が集まりだして『参考書の使い方セミナー』みたいになったこともある」のだとか。

 

 赤阪氏が重視するのは、こうした顧客も含めた書店、そして取次と出版社が、ともに棚づくりをするという意識だ。教学社では赤本の発注支援システムの導入を進めているが、これは赤本のアイテム数が非常に多く、地域や時期によって売れる商品も異なるため、「適正に販売するのが難しいことから、書店の販売データに基づいて適時送品することで、適正販売の難しさや発注の負担を減らす仕組み」と紹介する。そこで時間の余裕が少しでも生まれれば、棚構成を見直すなど「クリエイティブなことに使っていただきたい」と語る。

 

 そして、学参は行きたい学校に合格するためだけのものではなく、「大学までに学校や参考書で学んだ経験は、その後の人生においてプラスに働く。書店の中では比較的地味だと思われる学参だが、見方を変えればなかなか社会性のある、面白い仕事ではないか」と呼びかける。