辰巳出版はこのほど海外翻訳の新レーベル「&books」を創刊し、3月5日に第1弾『アンオーソドックス』を刊行した。同書は、自由と自立を求め、閉鎖的コミュニティからの脱出をはたした勇気ある女性の半生を綴った回想録。原書はアメリカで大きな反響を呼び、ニューヨークタイムズのベストセラーに選ばれ、2020年には同書を原作としたNetflixリミテッドシリーズのドラマも制作されている。
面で展開するためレーベル立ち上げ
新レーベルの編集長を務める同社海外版権本部・本部長鈴木優氏は、ソニー・マガジンズ、ヴィレッジブックスなどで、海外翻訳出版を専門に編集職を経験した後、日本ユニ・エージェンシー(日本ユニ)でエージェントビジネスを担当した。
その当時、辰巳出版に『ダース・ヴェイダーとルーク(4才)』(ジェフリー・ブラウン)や、『まだなにかある』(パトリック・ネス)などの海外版権を紹介。一方で、「もともと本を作り、売ることが好きだった」ことから、紹介した書籍の編集も受託。ともに書籍制作を行ってきた経緯から、再度編集者として辰巳出版に入社した。
日本ユニ時代から、同社の海外翻訳書籍のブランディングに対して課題を感じていたという。鈴木氏は「良書を出しているものの、同社が手がけている幅広いジャンルの中のひとつの“点”にすぎず、ブランドが確立できていないと感じていた。今回『&books』を創刊することで、上質な海外翻訳書を“点”から“線”、そして“面”へと展開し、書店と読者に届けていきたい」と新レーベル創刊の意図を話す。編集部は現在、鈴木氏を含めた社内の編集者3名と、社外の編集者3名で稼働している。
「ときには本と」をコンセプトに
同レーベルは、海外版権で「編集長として面白いと思える」作品や「時代の空気感に合った、今発するべきメッセージ」がこめられた作品を、ジャンルレスで刊行する。またレーベル名は、「日々の生活の中で、何か大事な時間を過ごす時の選択肢に本を入れてほしい」との思いから「&books」と名付けた。
レーベルのロゴは、長年付き合いのある鈴木成一デザイン室が担当。書籍の装丁も担い、買ってもらうに足る本を提供するため、第1弾『アンオーソドックス』は仮フランス装で仕上げるなど、各書籍にあった造本や装丁にこだわっている。
また、同書の翻訳は日本ユニ・エージェンシーで実施していた翻訳教室で出会った中谷友紀子氏が手がけるなど、これまでの経験と人脈が、今に結びついているという。
多角的なPRで書店員と読者に訴求
新レーベルの書店認知度向上のため、鈴木氏は「新しいものや作品への関心が高く、先見性のある読者が集まっている」という考えから、電子ゲラ配布サービス「NetGalley」に同書のゲラを掲載。レビュー投稿者には、レーベルコンセプトを体現するトートバッグをプレゼントしている。
また、書籍PR本しゃべりすとの奥村知花氏のパブリシティ協力や、LGBTQ+などにまつわる悩みを漫画で紹介するメディア「パレットーク」で同書の漫画記事化も予定し、読者へのPRも積極的に展開している。レーベル第2弾の『家にいるのに家に帰りたい』(クォン・ラビン著/桑畑優香訳)は3月22日に刊行予定。さらに年内6点の刊行を予定しており、鈴木氏は「すぐに浸透しなくても、数年後にはレーベルとして認知されるように、今の時代にあったメッセージを届けていく」と語る。