文化通信社が電子書籍制作・流通協議会、東京電機大学エルゴノミクスデザイン研究室と共同で実施した「2020年度電子書籍ビジネス動向調査」の結果がまとまった。電子書籍を発行する出版社数は調査史上最多となったほか、新型コロナウイルス感染拡大のマイナス影響はないことがわかった。
出版社240社が回答
調査は2015年以来6回目。出版社1076社に対して封書で質問票を送付し「はがき」か「ウェブ」で回答を得る第1段階調査と、さらに協力が得られる場合はウェブへの誘導もしくは調査票郵送で回答を得る第2段階調査を実施。240件の回答を得た。
電子書籍を発行している出版社は全体の約 66%(158社)だった。19年調査では電子書籍を発行している出版社は 56%(91社)。16年から本年度までの調査を見ると回答数に偏りがあるものの、電子書籍を発行する出版社の数は増加している。【グラフ1】
19年度に出版された出版物のうち、電子書籍の発行点数が紙書籍よりも多かったのは唯一「コミック」で、紙に対する電子化比率は148%に達し、電子版のみでコミックを刊行することが増えていることを示した。ついで電子版の発行点数が多い分野は「雑誌」と「実用・ビジネス」であり、電子化比率はそれぞれ80%と63%だった。一方で、電子書発行点数が最も少ない出版分野は「教科書・学参・児童」の20%と「人文・社会・語学」の30%だった。【グラフ2】
新型コロナウイルス感染拡大の影響による電子書籍の売り上げの変化については、全ての出版分野において電子書籍の売り上げが増えたという回答を得た。電子書籍の売り上げに対して感染症拡大によるマイナスの影響はほぼ無いといえる。【グラフ3】
電子取次の利用が70%に
電子書籍の販売に利用したチャンネルについて割合を尋ねたところ、「電子取次業者」が70%と最も多く、次いで「ネット専業書店」が14%だった。
紙と電子の書籍販売チャンネルごとの利点については、「手間」を利点に挙げるチャンネルは「取次業者(紙書籍)」と「電子取次業者(電子書籍)」が多かった。「時間」では「実店舗のある書店(紙書籍)」と「ネット専業書店」が多かった。「利益率」の点では「自社サイト(紙書籍)」が最も多く、次いで「自社サイト(電子書籍)」と「図書館(電子書籍)」が同程度で多かった。
取引のある電子書籍ストアを売り上げの多い順 で尋ねると、「Kindleストア」を1位に挙げる回答が突出して多かった。2位で多かったのは「楽天kobo電子書籍ストア」、3位で多かったのは「honto」、4位で多かったのは「紀伊國屋書店ウェブストア」だった。
電子書籍を出版するタイミングは、「紙書籍の販売1年以内」という回答が1番多く、次いで「紙書籍の発売と同時」が2番目となった。こちらに関しては必ずしも同時に販売するわけではなく1年以内に販売するものが多く、特に販売時期に制約はないということが判明した。【グラフ4】
有効な販促手段は著者SNS
電子書籍・紙書籍の販促手段として有効だと考えるものについては、「著者によるSNS発信」が22%と最も多く、次いで「編集・営業によるSNS発信」と「試し読みサービス(見本版の提供)」がいずれも14%と同程度で多かった。
続いて「新聞雑誌広告」が10%、「イベントの開催」が9%、「価格訴求サービス」が8%といった結果となった。前年度の調査では「著者によるSNS発信」と「価格訴求サービス」が23%と最も多く、「新聞雑誌広告」は3%だった。
販促手段で活用しているSNS等としては、Twitterが一番回答が多かったが、ターゲットとする年代層によって分かれていると考えられる。Twitterは10~20代が多くFacebookは20~40代、Instagramは10~30代が多い結果となった。
オンデマンドへの取り組み多く
使用した電子書籍のフォーマットの採用割合については、PDFが40%で最も多く、「ePub(リフロー型)」と「ePub(固定レイアウト型)」がそれぞれ30%弱となり、昨年までと同様にPDFの採用率が高かった。
制作する際の利点は、「ePub(リフロー型)」が最も読みやすく、また「デザインの美しさ」では「ePub(固定レイアウト)」が優れているとの回答が得られた。
今回調査で新しく取り組んでいる技術について設問を設けたところ、多くの出版社が定額サービスや動画サイトよりも多く「オンデマンド出版」に対応していることがわかった。【グラフ5】
電子書籍発行前向きに
一方で、電子書籍を発行していないと回答した出版社に対して、今後の発行予定について尋ねたところ、「当面発行予定なし」が70%と大半を占めたが、「2021年度以降の発行を検討」と「2020年度内に発行する予定」を合わると28%が電子書籍の発行を検討及び予定していた。
また、前年度調査では「当面予定なし」が80%だったことを踏まえると電子書籍の発行に対して前向きになっている様子が伺える。
電子書籍を発行していない出版社に障害について聞くと、「売り上げの目処が立てにくい」という回答が最も多かった。次いで「人材確保が難しい」と「制作の手間が掛かる」が同数を占めた。
書籍ビジネスの展望は明暗ともに
今後の電子書籍を含む書籍ビジネス全体の動向について単数回答で尋ねたところ、「電子書籍の売り上げは微増に留まり、書籍ビジネスの総売り上げは低減していく」と「電子書籍の売り上げ増以上に、紙書籍の売り上げが減少し書籍ビジネス全体が縮小傾向を示す」の2つのシナリオが同数で最も多い結果となった
ただ、「電子書籍の売り上げが増え、書籍ビジネス全体を支える柱に成長する」と「電子書籍と紙書籍の相乗効果で売上額が増え、書籍ビジネス全体が成長していく」の2つのシナリオについてもある程度の回答を得ており、書籍ビジネスが拡大していく展望を支持する結果も少なくなかった。
調査報告セミナーを開催
電子出版制作・流通協議会(電流協)は日本出版学会出版デジタル研究部会、東京電機大学エルゴノミクスデザイン研究室、株式会社文化通信社と共催で3月26日14~16時、オンラインセミナー「電子出版ビジネスの現状と今後の展望~出版社における電子書籍・デジタル雑誌ビジネス実態調査報告」を開催する。
2020年の出版指標を解説するとともに、文化通信社、東京電機大学、電流協が共同で毎年実施している電子書籍アンケート調査「出版社における電子書籍・デジタル雑誌ビジネス実態調査」の報告や、電子出版における新たな潮流に関してパネルディスカッションを行う。
講師は専修大学教授・植村八潮、文化通信社専務取締役・星野渉、東京電機大学准教授・矢口博之、小学館取締役・田中敏隆の各氏。
開催形式はYouTubeLive、ツイキャスプレミアム配信によるライブ配信。参加費は電流協会員社と日本出版学会会員は無料、その他一般は1000円。
詳細・申し込みは電流協ホームページから。