女性読者を掴んだビジネス書『人は話し方が9割』 すばる舎の営業と編集に聞く、ロングセラーの“本作り”と“売り方”

2021年3月12日

左から営業部・原口大輔氏と編集部・上江洲安成氏

 

 すばる舎が2019年9月に初版7000部で刊行した『人は話し方が9割』(永松茂久)は、老若男女の幅広い層から「話し方のバイブル」として支持され、現在23刷60万部のロングセラーとなっている。「読者が選ぶビジネス書グランプリ2021」特別賞を受賞し、同社は全国紙から地方紙まで広告出稿を予定するなど、さらなる売り伸ばしを図る。男性読者がメインのビジネス書ジャンルで、女性層を掴んだ“本作り”と“売り方”について、営業部・原口大輔氏と編集部・上江洲安成氏から話を聞いた。

 

編集×営業でロングセラー 当初から新規読者開拓を見据える

『人は話し方が9割』(永松茂久)

 

 原口氏と上江洲氏は企画段階からロングセラーで売ることを狙っており、著者である永松茂久氏を知らないファン層以外の人にも読んでほしいと考えていた。原口氏は「ビジネス書だが都市部だけではなく、郊外の書店でも売れるようにしたかった」と語る。

 

 また、上江洲氏も「当初の目標は10万部以上だった。永松茂久さん史上最高のベストセラーとするためには、マーケットから逆算すると男性読者や著者のファンに加え、新規読者を取り込まなければならなかった」と話す。そうした中、さまざまな企画案から「話し方」をテーマに選び、本作りがスタート。この時は未来屋書店で売れるようなビジネス書をイメージしていたという。

 

女性読者を開拓、コロナ禍でも売り上げを維持

「人は話し方が9割」実売推移グラフ(21.1月時点)のサムネイル

『人は話し方が9割』2019年9月~21年1月までの実売冊数

 

 刊行後、最初のブレイクスルーは19年12月、朝日新聞に広告を出稿した後の反響だった。年末年始の売れ行きが伸び、「ビジネスパーソン以外の人も購入していなければ、この売れ方はありえない」と原口氏は成功を確信した。

 

 原口氏は、プロモーション戦略の観点から、「急激な勢いを維持するのは難しい。本書は急激な跳ね上がりでなく、じわじわと実売が増えていき、口コミで広がったことがむしろ良かった。平日よりも、土日や連休に売れるようになり、主婦などの女性読者がメインの客層に切り替わっていった。当初の狙い通り、新規読者を獲得することができた」と振り返る。

 

 20年1月末時点での部数は7万5000部で、3月以降も版を積み重ねていく流れができていた。しかし、そのような状況下、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って緊急事態宣言が発令、書店が臨時休業するなどの事態が起こった。

 

 外出自粛と自宅待機、ソーシャルディスタンスが掲げられる社会へと移り変わる中でも、同書の売れ行きは落ちなかった。原口氏は「むしろコロナ禍だからこそ、家族とのコミュニケーションやオンラインでの距離感が世間の関心事となり、本書が求められるようになったのではないか」と分析する。

 

YouTube大学で紹介、口コミでも評判が広がる

書店と読者の関心を集めるため、帯には最新情報を反映し続けた

 

 11月7、8日に中田敦彦氏のYouTube大学で紹介、ビジネス書年間ランキング1位(日販調べ)を獲得したほか、書店のビジネス書ランキングで上位にランクインしたことから、5月16日と12月26日放送の「王様のブランチ」でも取り上げられた。

 

 女性層の口コミを加速させるために、InstagramやTwitterにもデジタル広告を掲出、需要に応じて市場在庫を増やし、順調に実売部数を伸ばしていった。購入者の男女比は、「KINOKUNIYA Publine」の客層分析データによれば4対6で、女性読者の多いビジネス書となっている。

 

本の配置を女性目線に合わせる POP・帯で販促に注力

「KINOKUNIYA PubLine」客層分析データ(‘20年2月~’21年1月調べ)

 

 女性層を取り込むための工夫として、リアル書店では女性のアイラインや手に取りやすい低い位置に同書を置き、平積みの多面展開を呼びかけた。展開する平台がなければ、送り届けるといったサポートをすることもあったという。こうした地道な努力を重ねたこともあり、実売はAmazonよりもリアル書店の割合が多い。

 

 書店から飽きられないようにコピーや帯をリニューアルし、POPやパネルといった販促物を配布した。帯については、部数表記などの微修正も含めると、これまでに13種類作成したという。今後もダンボール製の販売台を送り届けるなど、新しい取り組みを模索しながら売上増大を図っていく。

 

 原口氏は今後について、「年内に100万部達成し、数年後も売れ続けているビジネス書にしたい」と意気込む。上江洲氏も「単体で100万部、200万部、300万部と広げていくのはもちろん、こども向け、カードゲーム、マンガ、図解版、ラインスタンプなど、さまざまな形で広げていきたい」とアイディアを膨らませる。

 

 北海道から沖縄まで全国各地の書店で売り伸ばしてもらうため、同社は全国紙・ブロック紙・地方紙30紙以上に広告出稿を行う予定だ。計画している掲載スケジュールは次の通り。

 


全国紙・ブロック紙・地方紙 掲載スケジュール

〈3月6日〉

 北海道:北海道新聞(全5段)

 九州エリア:西日本新聞(全5段)、 熊本日日新聞(全5段)南日本新聞(全5段)、佐賀新聞(半5段)、長崎新聞(半5段)、大分合同新聞(半5段)、宮崎日日新聞(半5段)

 中国エリア:中国新聞(全5段)、新日本海新聞(全5段)、山陰中央新報(全5段)

 

〈3月13日〉

 全国紙:毎日新聞(全5段)

 東海エリア:静岡新聞(全5段)

 

〈3月14日〉

 全国紙:読売新聞(全5段)

 

〈3月20日〉

 北陸・甲信越・関西・中国エリア:新潟日報(半5段) 、北國新聞(半5段)、福井新聞(半5段)、信濃毎日新聞(半5段)、山梨日日新聞(半5段)、京都新聞(半5段)、神戸新聞(半5段)、愛媛新聞(半5段)、徳島新聞(全5段) 、四国新聞(半5段)

 

〈3月21日〉

 全国紙:日経新聞(半5段)

 

〈3月27日〉

 全国紙:朝日新聞(全5段)

 東北エリア:河北新報(半5段)、岩手日報(半5段)、福島民報(半5段)秋田魁新報(半5段)

 北陸エリア:北日本新聞(半5段) 

 沖縄エリア:沖縄タイムス(半5段)、琉球新報(半5段)

 

〈3月28日〉

 東海エリア:中日新聞(半5段)