萌(きざす)書房・設立20周年特別企画 全30巻以上の大作ディケンズ全集刊行

2021年3月30日

「書簡集Ⅰ」

 

 2001年創業の萌書房(奈良市・白石徳浩社長)が設立20周年記念企画として、『オリヴァー・トゥイスト』、『二都物語』、などの小説作品で知られるイギリス、ヴィクトリア朝時代の国民的作家・チャールズ・ディケンズ(1812~70年)全集を刊行する。

 

 訳者は、ディケンズ研究第一人者の広島経済大学・田辺洋子教授。同氏はこれまで3つの出版社から、ディケンズの全小説や寄稿など20点以上の翻訳を出版しているが、今作はそれらを改訳し、本邦初訳12巻の書簡集を加え、全30巻以上に及ぶ全集として刊行を開始した。 第1回配本は、ディケンズの友人・知人や編集者、後に妻となるキャサリン・ホガースらとの交流を垣間見ることができる書簡1061通を収録した「書簡集Ⅰ」(写真)。

 

全集刊行の意義

 

 昨今、文学関連は売れにくいとされているが、全集刊行に踏み切ったことについて白石社長は「田辺先生のディケンズ愛にほだされたのかも知れない。先生の父も高名なディケンズ研究者で、幼少期からディケンズ作品に触れ、数十年にわたり20作品以上も個人訳で出してきた情熱と持続力に感服する」と話す。また、「今も世界中で映画や演劇作品として親しまれる作家だが、日本に全集がなかった。全集という読みたい人がどの方向からでもアクセスしやすい形で残すことに意義がある」とする。

 

 書店に向けては「ディケンズ作品の中には気軽に読みやすい文庫本もあるが、全集には全集なりの役割がある。ぜひ、基本図書として海外文学や全集の棚に常備してほしい。また、外商でも図書館への必備図書として売り込んでいただきたい」と、全集ならではの需要に期待を示した。

 

 田辺氏は「訳者として作品に立ち向かう度に全力を尽くしてきたが、いざ完成すると、至らぬ点に気付くこともある。今回、修正、改訳のうえ、全集という形で再出版の機会を得られたことはこの上ない幸せ。引き続き妥協なく、原典により忠実な訳出を試みたい」とコメントしている。      

 【堀雅視】

 

□ディケンズ全集 書簡集Ⅰ 1820︱1839年(1月刊行)=A5判上製/836㌻/本体8000円