書店議連 図書館の絶版等資料・複写資料のデータ送信、出版ビジネスへの圧迫を懸念

2021年5月7日

4月21日に開かれた「全国の書店経営者を支える議員連盟」の会合

 

 自由民主党衆参両議員による「全国の書店経営者を支える議員連盟(書店議連)」の会合が4月21日、東京・千代田区の自由民主党本部で開かれ、「図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)」などについて議論を行った。書店議連は関係省庁に対して、ルールの明確化、補償金制度による著作権者の権利保護、民業圧迫を防止するための具体的措置を求めた。

 

 会合には、書店議連から河村建夫会長(衆議院議員)、齋藤健幹事長(同)、伊東良孝事務局長(同)のほか、衆参両院の各議員が参加。出版関係からは日本書店商業組合連合会(日書連)の矢幡秀治会長(真光書店代表取締役)ら書店の代表12人、作家の井沢元彦氏、出版流通関係からは日販グループホールディングス・平林彰取締役会長、出版社からは新潮社宣伝部・社長室の私市憲敬部長が出席した。

 

図書館関係の権利制限規定の見直し

 

 現行の著作権法では、図書館等は利用者の求めに応じ、調査研究目的に限り、公表された著作物の一部分について、「複製物(コピー)」を1人につき「1部」提供できる。なお、図書館における複写サービスの利用は、図書館に直接来館するか郵送に限定されている。また、国立国会図書館が持つ絶版等資料のデータ送信については、現行制度上、送信先が図書館等に限られている。そのため、公共図書館等の館内でしか閲覧できず、各家庭等からインターネットを通じての利用はできない。

 

 今回の会合で主要な議題となった「図書館関係の権利規定の見直し」は、そうした「図書館資料のコピー」や「入手困難な絶版等資料」の提供サービスについて、デジタル化・ネットワーク化に対応し、インターネットでデータ送信できるようにする動きだ。図書館資料へのアクセスを容易化するものだが、出版社、書店経営者や著作権者などからは、民業を圧迫するとの強い懸念が示されていた。

 

 こうした法改正の動きに対して書店議連は、①新刊について、1年のデータ送信対象の猶予②著作権者保護としてのデジタル化資料対象(入手困難資料)の選定ルールの明確化③二次使用による民業圧迫を防止するための具体的措置④補償金制度導入において、著作権者まで確実に行きわたる制度の実施⑤政令・省令の検討時に開催される委員会への著作権者のメンバー化――を要請している。

 

伊東事務局長「国会議員50人が参加する有力な議連に」

伊東良孝事務局長(衆議院議員)

 

 伊東事務局長は開会のあいさつで、2016年9月にスタートした書店議連が、衆議院議員43人、参議院議員7人の計50人が参加する有力な議連になったと報告。そのうえで、「これまで書店の力になれないかと、書店議連は7回の会合を重ねてきた。1年間に400~500店以上の書店が姿を消す状況にある。子どもたちの将来、日本の活字文化、日本の製紙業を守るためにも大事な問題だ」と活発な議論を呼びかけた。

 

河村会長「読書の習慣を守る」

河村建夫会長(衆議院議員)

 

 続いて、あいさつした河村会長は「前回の会合でもデジタル化の問題は、書店にどのような影響を与え、図書館の権利制限規定はどうあれば良いのか、再販制度の遵守等について意見交換した」と振り返った。さらに、「デジタル化が子どもたちにどのような影響を与えるのか、医療の面からもさまざまな指摘がある。全てをデジタル化すれば良くなるとは思わない。技能、技術を子どもたちが持つことが必要であることは認めるとしても、読書の習慣など、大事なものは守っていく」と述べた。

 

矢幡会長「書店議連で議論を深めていきたい」

日書連・矢幡秀治会長(真光書店代表取締役)

 

 書店代表の矢幡会長は「書店経営者の観点から、1年に全国で400店以上が閉店し、私の店もいつなくなるかわからない。デジタル化の流れもあるが、直近のことも考えていく必要がある。我々、書店は図書館とも密接に関係があるので、この場で議論を深めていきたい」と話した。

 

井沢氏「著作権者に相応の代価を」

作家の井沢元彦氏

 

 作家の井沢氏は、「図書館が著作物をコピーして無料で配ると、日本の文化は崩壊してしまう。文化国家というのは、人間の知恵にお金を払う国家だ」と話し、法改正は著作権者の利益を損なう可能性があると指摘。「図書館からすれば、国民に奉仕する気持ちはわかるが、著作権者に相応の代価を払わない限り、国家は衰亡するというのは歴史の教訓でもあるので、心にとめてほしい」と訴えた。

 

文化庁「補償金制度、絶版等資料は対象外」

書店経営者の前で、文化庁と経済産業省の担当者が答弁した

 

 議事では齋藤幹事長をはじめとする議連の議員が質疑し、文化庁・吉田光成著作権課長と経済産業省商務情報政策局・髙木美香コンテンツ産業課長が答弁した。

 

 著作権者への補償金制度について、吉田著作権課長は「図書館関係で2つの改正事項があり、1つは国立国会図書館が持つ入手困難な絶版等資料について、インターネットを通じて閲覧できるようにする。現行でも公立図書館において資料が見られるようになっており、その場合は基本的に無料で行っている。なので、この部分について補償金制度は導入しないというのが結論だ」と答えた。

 

 そのうえで、「審議会で将来的な部分は、個々の状況を見ながら、補償金制度を導入する方向も目指すべきとの意見があった。我々もしっかり踏まえて、継続した議論を行いたい」と述べた。

 

 書店経営者からは「著作権が残っているになぜ無料なのか。本が絶版あるいは手に入らなくなるのは早い。文庫でも数年で入手できなくなることがある。そうなると、5年もたったら無料で配られてしまうかもしれない。著作権がある限りは、お金を徴収して払うことが作家を守ることになる」との意見があった。

 

 また、複写サービスのデータ送信については、関係者を集めてガイドラインを作成し、補償金制度の導入および料率を決定する方針だ。文化庁は「送信対象となる書物については、法律上でも権利者に侵害を与えるものは除外している。どういう形で定めていくのか、意見をもらいながら議論を進めていきたい」と説明した。

 

経済産業省「法改正で民業圧迫をしてはならない」

 

 齋藤幹事長は「著作権者の権利保護が曖昧では、コンテンツ産業の育成・発展を阻害する可能性が残る。また、入手困難資料の判断を国立国会図書館に委ねることや、民業圧迫の懸念について、経済産業省はどう考えているのか」と投げかけた。

 

 髙木コンテンツ産業課長は「著作権者に代価を還元することが出版産業にとって一番大事だ」との前提を示し、「その観点に立つと、絶版資料が再び流通することもあるので、なかなか難しいと思う。今回の法改正によって、著作権者、出版社、書店、出版流通など、既存の出版ビジネスを圧迫しないことが重要だ」と答弁した。

 

齋藤幹事長「関係者の意見を集約し、悔いのない結論を」

齋藤健幹事長(衆議院議員)

 

 齋藤幹事長は「議連の事務局も言及しているが、政省令やガイドラインの作成にあたり、書店を含めた幅広い関係者の意見を集約し、悔いのない結論を出してほしい。また、著作権が存在し、流通している限りは補償すべきとの意見があった。全くその通りだ。そうした観点からの議論が尽くされていない」と強調。政省令の検討時には出版関係、著作権者等をメンバーにすることを求めた。

 

 そのうえで「経済産業省には、コンテンツ産業に大きな影響があるので、著作権者の権利を守る観点を持ってほしい。また、日本の書店が減少していることについて、文化を守り発展させる文化庁が座視できるのか、もっと真剣に考えるべきだ」と総括した。

 

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【書店経営者を支える議員連盟】

衆議院議員 参議院議員
赤澤 亮正 猪口 邦子
伊藤 達也 岩本 剛人
伊東 良孝 加田 裕之
上杉 謙太郎 髙橋 はるみ
上野 宏史 豊田  俊郎
小倉 將信 長谷川 岳
小田原 潔 山谷 えり子
鬼木 誠  
鴨下 一郎  
河村 建夫  
城内 実  
北村 誠吾  
木村 哲也  
高村 正大  
小寺 裕雄  
小林 茂樹  
齋藤 健  
坂本 哲志  
左藤 章  
繁本 護  
鈴木 隼人  
武井 俊輔  
武部 新  
橘 慶一郎  
谷 公一  
中曽根 康隆  
長島 昭久  
根本 幸典  
馳 浩  
鳩山 二郎  
原田 憲治  
福山 守  
平沢 勝栄  
船橋 利実  
古川 康  
松島 みどり  
松本 洋平  
三原 朝彦  
宮澤 博行  
山下 貴司  
山田 賢司  
簗  和生  
渡辺 孝一