書籍出版社の青弓社は今年6月で創業40周年を迎える。ちょうど3月には「青弓社ライブラリー」が100巻を越え書店フェアを展開。図書館などの需要に対応すべく、この時期に合わせて新刊の電子書籍化にも踏み切った。また、4年ほど前に始めた新刊の事前受注制も定着するなど、これからの時代を見据えた取り組みを進めている。
同社は1981年に出版社勤務などを経て矢野恵二社長が創業。現在は従業員7人(編集者4人)の体制で年間約40点の新刊を刊行する。
青弓社ライブラリー100巻記念で書店フェア展開
社名を冠したシリーズとして99年に桂英史著『東京ディズニーランドの神話学』でスタートした「青弓社ライブラリー」は、年に2~3点のペースで今年3月に100巻目の岩渕功一編著『多様性との対話』と101巻目の太田省一著『ニッポン男性アイドル史』を刊行した。
「いくつも著書がある人から、初の著作となる若い人まで、社会学を中心に人文系の著者を収める枠を作るのが目的だった」と矢野未知生編集長。書店に棚を確保し行き先が決まったことで、新書のようにニッチなものも含めた自由なテーマ設定が可能になった。
その中から、7刷に達している南田勝也『ロックミュージックの社会学』(2001年)や、紀伊國屋書店「じんぶん大賞2019」第2位にもなった6刷の倉橋耕平『歴史修正主義とサブカルチャー』(18年)といったロングセラーが生まれた。
初版は2000部を基本とし、価格は「卒論や修論を書く学生が手に取れる」(矢野恵二社長)という思いからスタート時の本体1600円を維持。そのためボリュームは240ページ以内に設定する。装丁は17年の89巻まではシンプルな統一デザインだったが、90巻以降はそれぞれテーマに合わせたデザインに変更している。
100巻刊行を記念して「記念フェア」を主要書店で展開。パネルなど拡材とともに、B6判20ページに主要タイトルの推薦文と刊行リストを収めた記念冊子を作成し、フェア実施書店に提供している。フェアは規模に応じて35点、20点、10点のセットを用意。希望があれば今年いっぱいは対応する。
“緊デジ”で一気に電子書籍化
刊行リストを見ると品切れ・増刷未定のタイトルも目立つが、電子書籍で読めるものも多い。実は12年に日本出版インフラセンターなどが実施した「経済産業省コンテンツ緊急電子化事業(緊デジ)」で、それまでに刊行していた70タイトルほどを一気に電子化し、いまは100点中79点に電子書籍版がある。そして今年3月からは同シリーズも含めた原則全ての新刊の電子書籍版刊行を開始した。
「最近は大学図書館などが電子書籍を購入するようになり、昨年は緊急事態宣言で休業する大型書店や休館する図書館もあったので、電子化を進めなければならないと考えた。人文書の既刊1点で600ダウンロードを超えることもあるなど思ったより売れる」と矢野編集長は電子書籍の手応えを話す。
また、営業面では4年ほど前に新刊の配本を委託配本制から事前注文制(返品条件付き)に切り替えた。「的確な部数を作り、的確な書店に届けるため」(矢野社長)だ。
この取り組みを進めるために発売2カ月前には所属する版元ドットコム経由でJPO出版情報登録センターや取次、オンライン書店などに書誌情報を登録。主要書店へのFAXやメールでの営業を開始する。
書店への認知も広がり、以前とビジネスのボリュームは変わらないという。事前受注の状況から刷部数を決めることもでき、無駄な送品がなくなることでキャッシュフローも改善。矢野社長は「経営が単純な『家計簿』になったので気持ちが楽になる」と話している。
【星野渉】