奈良市で哲学、思想など人文書を中心に出版活動を進める萌書房(白石徳浩社長)が、一風変わった哲学の入門書を刊行し、良好な動きを見せている。4人組バンド「Mr・Children」(ミスチル)の楽曲から世界観、人生観、恋愛観などをあぶり出し、気軽に読める「ラジオ講座」風にアレンジした『読むラジオ講座 ミスチルで哲学しよう』(小林正嗣)を4月に発刊。白石社長は「リアル書店、ネット書店双方から、小社としては異例の多さの事前注文をいただいた」と反響に驚く。
著者の小林氏は、政治思想史の専門ながら、哲学・思想を幅広く研究する大学講師。同氏は、ミスチルの楽曲「蘇生」に「ロマン主義」(ヨーロッパから始まった精神主義の一つ)を感じ、自身が担当する哲学の講義にミスチルの曲を取り入れた。
2016~17年には、NHK長野放送局のラジオ番組「ゆる~り信州」の中で、小林氏と2人の番組パーソナリティが対話形式で繰り広げる「ミスチルと哲学」が9回にわたり放送され、好評を博した。
同氏が、萌書房が18年に刊行した『読みつぐビートルズ』を読み、出版企画として持ち込み書籍化が実現した。本書で取り上げた楽曲は「HANABI」「掌」「GIFT」などミスチルファンには親しみある8曲。登場する先生、山下アナ、桜子さんの3人が、ときめきながら哲学的に読み解いた入門書。ラジオの内容をベースに構成しているが、番組内では説明不足の部分なども補っている。
白石社長は「原稿を読むまでミスチルの名前は知っていたが、曲を聴いたことがなかった。本書は私のような人にもわかりやすい内容にまとめている」と話す。
著者の小林氏は文化通信の取材に、「学生たちが興味を持てる内容と難易度、研究者として恥じることのないミスチル分析の2点を心がけて執筆した。しかし、意外に、ひた向きに哲学する桜子さんに寄り添った感想が多い。哲学入門書、ミスチル解釈論を意図した自著が、『桜子成長物語』という新たな一面を見せていることを嬉しく思う」とコメント。
白石社長は「哲学の入門書が売れ始めていると聞く。コロナ禍による『巣ごもり需要』の影響もあるが、このドラスティックな社会の変化に人々が何かを感じ、考え始めているのでは」とその要因を推察し、「本書は、難しい哲学史的な知識も必要なく、『ミスチルの楽曲』という親しみやすい材料をきっかけとして、自分の頭でしっかりと深く考えるための格好の手引書」と推奨している。
【堀雅視】