みすず書房 創業75周年で“宝さがし”テーマに書店フェア開催

2021年6月14日

有隣堂横浜駅西口店のフェアコーナー

 

 今年3月で創業75周年を迎えたみすず書房は、1年間にわたり書店店頭で創業75周年記念フェア「みすず書房の本 宝さがし」を展開中だ。すでに全国の主要書店70店ほどから申し込みがあり、今後も同時期にエリアがかぶらないよう調整をしながら随時開催していく。

 

 記念フェアは全社員へのアンケートで集まったお薦めの200点以上から、営業部が主要銘柄100点を選び、それぞれの本を選んだ社員のコメントを手書きでPOPにした。これを展開書店の規模に応じてオーダーメイドで提供。棚1本に50点ほどを陳列する書店が多いという。

 

 また、フェア実施店で配布するリーフレット『みすず書房75年の本 ロングセラーを中心に』を作成。守田省吾社長が創業から5年刻みで刊行してきた主要書目を紹介している。

 

 6年前同社に入社し今回のフェアを担当する同社営業部・佐々木久美子さんは、「他社があまりやっていないような一味違うフェアを開催したいと考え企画しました。手書きPOPやお手製看板、リーフレットなど手作り感が出て、硬いイメージの版元ですが、楽しそうな印象を持ってもらえるフェアを心がけました」と話す。

 

75年間に刊行した出版物が並ぶ社屋地下の書庫で手書きPOPを手にする佐々木さん

 

 これを機会に社員が選んだオススメの刊行物をTwitterで発信する企画も実施。1年にわたりフェア書目以外も含めて水曜と金曜にハッシュタグ「#私の好きなみすず本」をつけてコメントを配信している。

 

多様な分野で名著残す

 

 同社は敗戦直後の1946年3月に創業。人文書版元というイメージだが、文芸から経済、自然科学などまで刊行ジャンルは幅広く、多くの分野で定番の名著を残してきた。

 

 その中には超ロングセラーであるフランクル『夜と霧』(1956年刊)から、近年の山本義隆『磁力と重力の発見』(2003年刊)、トマ・ピケティ『21世紀の資本』(15年刊)のような話題書まで含まれる。創業以来の刊行点数5000点のうち約1700点がいまでも版を重ねていることも、充実したバックリストの存在を示している。

 

 いまは年間70点ほどの新刊を刊行するが、営業を担当する田崎洋幸取締役は「当社は人文のイメージが強いですが、ここ10年ほどは経済、社会科学、自然科学の新刊も多く、そういう本は若い読者が増えています」と話す。

 

 また、田崎取締役が若かった頃は多くの書店に同社の常備コーナーがあったが、POSレジの普及で書店の単品管理が進んだことなどから少なくなった。しかし、テスト的に同じ書店で常備2セットを同社コーナーとプロパー棚で並べたところ、プロパー棚の方が回転が良いという結果が出た。

 

 「読者は出版社ではなくてジャンルから選んでいます。各分野で評価されていることの大切さを痛感しました」と田崎取締役。

 

 特定の分野に特化しすぎなかったことと、読者や書店から信頼されるクオリティーを守り続けてきたことが、75年にわたって支持され続ける要因といえそうだ。

 

 いまの同社陣容は編集17人(嘱託含む)、営業5人をはじめ30人。ここ数年は図書館向きの書籍を中心に新刊の1割程度は電子版を同時発売するサイマル刊行を実施するなど、新たな挑戦も続けている。

手書きPOPのサムネイル

社員のコメントから作成したフェア用の手書きPOP

【星野渉】