2016年に発足した自由民主党による議員連盟「全国の書店経営者を支える議員連盟(書店議連)」――。書店および業界が将来とも存続できる環境を維持し、作家の創作活動と国民の読書文化を継続発展させることを目的に掲げ、会合では書店を取り巻く環境を議題として取り上げ、今では50人の国会議員が参加する有力な議連となり、書店経営者が国会議員に対して生の声を届けられる貴重な場所となっている。書店議連の事務局長を務め、立ち上げメンバーでもある伊東良孝衆議院議員に議連発足の経緯やきっかけ、「まちの本屋」に対する思いについてインタビューした。
【鷲尾昴】
書店、作家、出版社、取次の声を届ける場に
――書店議連を立ち上げた理由と経緯を教えてください。
2016年の夏ごろ、数名の書店経営者と懇談した際に、書店を取り巻く環境が厳しくなっているとの話を伺いました。全国で毎年400~500店の書店が閉店している現状があります。書店のない自治体、町村が増えるのは国民にとっても不便かつ不幸なことです。
書店だけではなく出版社や作家、出版流通会社など、日本の出版業界はこのままでよいのか、政治の力で基礎的な部分を支えられないか、障害になっているところを解決できないか。そうした思いから、日本の文化発信基地の担い手の一つである書店経営者の方々の声を聴き、可能な対応を行える環境を整えるため、議連の発足に向けて動き始めました。
まず、文字活字文化の推進で幅広くご活躍されている河村建夫衆議院議員に会長、経済産業省ご出身というご経験と自らも著作者でもある齋藤健衆議院議員に幹事長をお引き受けいただき、「全国の書店経営者を支える議員連盟」を立ち上げました。
17年3月に開いた初回の会合で参加議員は21人でした。そして21年6月現在は衆議院議員43人、参議院議員7人の50人が参加する有力な議連に成長しています。
文化発信基地の担い手を守る
――「まちの本屋」はなぜ必要なのでしょうか。書店に対する想いをお聞かせください。
全国の書店が疲弊し、閉店するということは、日本の文化水準の維持と向上に大きな影響を与えると危惧しています。いわゆる「まちの本屋」は地域づくりの柱です。
書店が閉店しても、ネットでも購入できるとお考えの方もおられるが、現物を手に取って中身を見て買う、またはお店でふとしたきっかけで探していた書物と出会う、という出会いの場として、大変貴重で不可欠な存在です。
大人からお子さんまで幅広い方々が、時には向上心を持って、時には余暇を充実させるため、時には勉学に励むため、幅広い目的を持って気軽に行ける「まちの本屋」がなければなりません。
本を読むこと、読書の大切さというのは、どの年代であってもたくさんあります。私自身も学生のころは、書店に行くのが一番の楽しみでした。いろいろな本を探して歩くのも書店ならではの面白さです。
――議連が発足してから約5年が経ちますが、どのような活動をされてきましたか。
これまで、懇談会を含め、全国の書店経営者との会合を9回開催し、さまざまなご意見を伺うことができました。この議連は書店経営者の生の声を知ることができる貴重な場所となっています。
書店が抱える課題は多岐にわたるため、念入りに実態を確認し、必要に応じて関係省庁とも打ち合わせを行い、議連として取り組まなければならない課題、解決の見込みがある課題が概ね明確になってきました。
今、書店が閉店に追い込まれている要因は一つに限らず、複合的な問題があります。課題解決が簡単ではないことも認識しているので、一つ一つの課題についてしっかりと前進させていきます。
――参加する議員が50人となるなど、議連の活動は広がりを見せています。今後の方針は。
50人以上の議連は、数ある議連の中でも大きな所帯であり、それだけ書店および出版業界への関心が高いという表れです。業界、業種として、話を取りまとめていただき、総意として伝えいただければ、更に議連が本来の力を発揮できるようになります。また、議連メンバーの名簿も掲載いただいておりますので、各地で書店さんの生の声を議員に届けていただければと思います。
議連に参加している議員は各方面の第一人者です。参加する議員の人数を増やせばいいというような考えは持っていません。議連のテーマは難しく、書店業界や出版業界に興味のない方が入ると収給がつかなくなりますし、お互いプラスになりません。見識や関心を持っている議員に声をかけています。
また、今年の4月と5月に開いた会合では、書店の経営者に加えて、作家、出版社、出版流通会社等、出版業界に関わる多くの方々に出席してもらえました。議連にとって大きな一歩だと思っています。顕在化してきた課題について、お力添えいただけるよう、多くの書店経営者および作家、出版社、出版流通会社の声を届ける場にしていきたいです。
最初の関心は「図書館問題」
――書店や出版の問題に関心を持たれたきっかけは。
私が最初に関心を持ったのは図書館問題でした。私は地元の北海道釧路市で市長をしていたことがあります。その当時、公立図書館の運営を民間に委託する話がありました。
委託された指定管理業者は、公立図書館を運営する際、委託業者の評価基準に図書館来館者数と貸出冊数等があり、それらの数字の達成を目指していたようです。それでなければ、自分達の営業の成績をなかなか示すことができないからです。
何冊も売れ筋の本が公立図書館で貸し出されていることに違和感を覚えました。来館者数や貸出冊数ばかりに気をとられ、地元に関する書物等、なかなか個人で購入できないような本を読んでもらう発想が蔑ろにされないかと心配でした。
――今年の会合では改正著作権法の「図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)」が主な議題となりました。図書館データや複写サービスのデジタル送信などに対し、どのように対応しますか。
議題となった「著作権法の改正」についても、会合に出席した書店経営者に加えて、作家や出版社からも多くの指摘が寄せられ、著作権者の意見が十分反映されないままに進められている実態が分かり、とても驚きました。
今回の議論を通じて、関係省庁にも業界の実態や著作権者(作家さん)の生の声をしっかり伝えることができ、特に文化庁には法案の検討段階において意見をしっかり吸い上げるよう確認することができたと思います。音楽の著作権を管理している日本音楽著作権協会(JASRAC)のように、出版物でも作家や出版社など、著作権者に還元される仕組みが必要なのではないでしょうか。
引き続き、省令政令の議論を見届けるとともに、議連の場で討議を深め、本当の意味で日本の将来、国民の利益につながる取り組みを進めていきます。
――伊東議員が取り組んでいきたいことをお教えください。
9回の会合を通じて、「再販制度の遵守」「公共図書館のベストセラー蔵書に関する課題」「出版物発売日の差異発生」「万引き被害と転売サイトヘの出品」「キャッシュレス手数料負担の問題」などについて、出版業界に関わる方から実情をお聞きしました。引き続き、書店議連で広くご意見を吸い上げ、課題を一つずつ解決し、活字出版文化の継承を実現したいです。
また、ネット書店については、利便性に加え、リアル書店では同等のサービスができないようなポイント還元や送料無料を掲げています。その結果、リアル書店にどの程度の影響が出ているのかも確認できていません。実態をしっかり把握したうえで、適切な措置を講じていく姿勢です。
総じて、書店業界および出版業界の何が大きな課題なのか、どのように解決すべきなのか。業界の利益だけではなく、日本の文化水準の維持という大きな観点で幅広い意見を結集させることが、議員事務局長の役割だと思っています。
全国の書店経営者を支える議員連盟
衆議院議員 | 選挙区 |
赤澤 亮正 | 鳥取2 |
伊藤 達也 | 東京22 |
伊東 良孝 | 北海道7 |
上杉 謙太郎 | 福島3 |
上野 宏史 | 比例南関東 |
小倉 將信 | 東京23 |
小田原 潔 | 東京21 |
鬼木 誠 | 福岡2 |
鴨下 一郎 | 東京13 |
河村 建夫 | 山口3 |
城内 実 | 静岡7 |
北村 誠吾 | 長崎4 |
木村 哲也 | 千葉4 |
高村 正大 | 山口1 |
小寺 裕雄 | 滋賀4 |
小林 茂樹 | 奈良1 |
齋藤 健 | 千葉7 |
坂本 哲志 | 熊本3 |
左藤 章 | 大阪2 |
繁本 護 | 京都2 |
鈴木 隼人 | 東京10 |
武井 俊輔 | 宮崎1 |
武部 新 | 北海道12 |
橘 慶一郎 | 富山3 |
谷 公一 | 兵庫5 |
中曽根 康隆 | 群馬1 |
長島 昭久 | 東京18 |
根本 幸典 | 愛知15 |
馳 浩 | 石川1 |
鳩山 二郎 | 福岡6 |
原田 憲治 | 大阪9 |
福山 守 | 比例四国 |
平沢 勝栄 | 東京17 |
船橋 利実 | 北海道1 |
古川 康 | 佐賀2 |
松島 みどり | 東京14 |
松本 洋平 | 東京19 |
三原 朝彦 | 福岡9 |
宮澤 博行 | 静岡3 |
山下 貴司 | 岡山2 |
山田 賢司 | 兵庫7 |
簗 和生 | 栃木3 |
渡辺 孝一 | 比例北海道 |
参議院議員 | 選挙区 |
猪口 邦子 | 千葉 |
岩本 剛人 | 北海道 |
加田 裕之 | 兵庫 |
髙橋はるみ | 北海道 |
豊田 俊郎 | 千葉 |
長谷川 岳 | 北海道 |
山谷えり子 | 比例 |