文化通信社は7月5日、創業75周年を記念したシンポジウム「デジタル社会における地方創生と地元メディアの役割」を東京・千代田区の神田明神文化交流館「EDOCCO STUDIO」(エドッコスタジオ)で開催した。平井卓也デジタル改革担当相と神戸新聞社・高梨柳太郎社長が登壇し、キャスターでエッセイストの南美希子さんが司会を務めた。
デジタル分野でも「信頼」が重要に
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、会場への参加は人数を制限し、全国紙、地方紙東京支社、関連会社・団体の約50人が参加。オンラインも併用し、全国のメディア関係者ら約100人が視聴した。
平井氏はまず、9月1日の発足を目指す「デジタル庁」について説明。高梨社長も同庁への期待や課題などを指摘した。
また、デジタル教科書の活用について、文部科学省で検討が進められていることを問われた平井氏は、「紙には紙の良さ、デジタルはデジタルの良さがある。人間のインターフェースはアナログなので、書いて覚えなければならないことは絶対にある」としたうえで、「子どもたちにとって、ベストなハイブリッド型を作っていくことが重要ではないか」との考えを示した。
続いて、高梨社長がコロナ禍における神戸新聞社の状況や、デジタル分野の取り組みなどを紹介。それを受け、平井氏は「デジタル化の流れの中で、神戸新聞社の取り組みはとてもスマートなやり方」と語り、ニューノーマル時代に、デジタルを上手く活用したビジネスモデルを考えることの重要性を改めて指摘した。
さらに、静岡県熱海市で発生した大規模土石流の様子をとらえた一般の人の動画を例に、「今は配信ルートやクリエーターが多様化し、コンテンツの流通量がどんどん増えている。その中で、新しいメディアが出てきて、誰もがコンテンツを供給、発信できる時代になった」とし、「そういった中では権利処理の迅速化が重要になってくる」などと指摘した。
また、地域に密着したメディアの将来について、「やはり地元からの信頼がとても重要だ。『GIGAスクール構想』も新聞を活用した授業も、新聞社という信頼があるからこそ一緒に取り組みたいと思うのだろう」と語り、「自宅に毎日、紙の新聞が届くことも信頼の一つ。そういった積み重ねの歴史をもとに、どういった商売をするのか。今までの新聞社の延長上ではないものも、たくさんあるのではないかと推察する」と期待した。
そして、例えば「利用者の同意を得て取得した行動や購買の履歴などの個人データを企業に提供する『情報銀行』といったサービスも、新興企業ではなく、地方紙と地方銀行などが共につくったものに、地域の人は最も信頼を持つのではないか」などと提案した。
高梨社長も「大臣の話を聞き、信頼性をバックにした取り組みは、デジタルの分野でも大事な視点だと改めて感じた」と強調。「地域に根ざしたメディアとして、地方の豊かさ、可能性、課題をすくい上げ、(地元に)届ける役割がいっそう大事になる」と語った。