サンクチュアリ出版「One Peace Books」 海外出版事業が好調

2021年8月30日

アメリカ版の書籍を手にする市川氏

 

 サンクチュアリ出版が手がける海外出版事業「ワンピースブックス」が好調だ。日本のマンガやライトノベルを主に取り扱い、国内版元と版権交渉を行って、アメリカで翻訳出版している同事業の経緯と今後の展望について、同社取締役営業部長の市川聡氏に聞いた。

 

15年前にニューヨークで始動

 

 「ワンピースブックス」は、サンクチュアリ出版の創業者である高橋歩氏の「日本の出版物を世界に広げたい」という思いのもと2006年にスタート。事業会社のOne Peace Books, Inc.は、株式会社サンクチュアリ・パブリッシングと、株式会社A - Worksが共同出資をして、同年にニューヨークで設立した。社名は、世界を一つに、本で幸せを届けるという「ONE WORLD ,ONE LOVE,ONE PEACE.」の願いを込めて名付けた。

 

 本格的に動くために、金子仁哉副社長が手を挙げて、家族とともにアメリカへ移住。NYブックフェアへの参加や、ディストリビューターとの交渉を続け、2009年に最初のディストリビューターと契約し、アメリカの出版流通へ乗り出した。

 

浴びた洗礼と方針転換

 

 開始初期は同社のビジネス書などのコンテンツを翻訳出版していたが、まるで売れず赤字の時期もあったと市川氏は話す。

 

 「ある時ディストリビューターからはっきりと『アメリカ人は日本人からビジネスを学ぶ発想はない』だから、日本人のビジネス書は成功しないです、との厳しい指摘を受けました」。アメリカの洗礼を浴びて、戦略を練り直し、アメリカでも尊敬される日本のコンテンツであるマンガで勝負しよう、と方針を切り替えた。

 

少しずつ仲間が広がり

紀伊國屋書店サンフランシスコ店でのファンイベントの様子

 

 同社にマンガのコンテンツはなく、版権交渉が可能な出版社探しを始めたところ、スタッフと知り合いだった漫画家が第1号に名乗りを上げてくれた。そこで、コミックスを出版していた2013年当時のメディアファクトリーと交渉、版権を買い取って、アメリカでの翻訳出版が開始。

 

 そこから少しずつコンテンツを増やし始め、アメリカの市場でも認識してもらえるようになった。流通量も増えてきたことから、完全にコミック路線に舵を切り、その後、ライトノベルの翻訳出版も開始した。

 

 一時期はアメリカオリジナルのコミックも出版していたが、現在は日本のコミック、ライトノベルを専門に刊行し、比率は8対2でコミックが多数を占める。国内版元はKADOKAWAを筆頭に、アルファポリス、太田出版などと取引しているほか、新規の出版社とも交渉中で、エージェント経由のやりとりもあるという。

 

海を跨いで密なチームワーク

 

 現在「ワンピースブックス」は、アメリカの金子氏とアメリカ人編集者のロバート・マクガイア氏、そして日本の市川氏の三人体制で運営。毎週オンライン会議を行い、翻訳出版するコンテンツなどをセレクト。市川氏が日本の版元と版権交渉し、ロバート氏が翻訳、編集して金子氏とともにアメリカ市場へ投入している。

 

 会議では、日本市場で動きがいいコンテンツをチェックして、日本のアニメとマンガに特化したコミュニティー&データベースサイト「MyAnimeList」などを参考に、アメリカ市場での可能性などを検討している。「人気すぎるコンテンツはすぐに北米版権が売れてしまうため、アメリカで人気が出てくる兆しがあるブレーク前の作品を見極めることが肝心」と市川氏は語る。

 

ライバルはアメリカの出版社

 

 競合はアメリカの他の出版社だとする同社の強みは、日本人のスタッフがいるからこその信頼性、そしてアメリカ人の編集者もチームにいることでスピード感も確保できることにあるという。アメリカでのオーディオブックに参入したほか、アメリカ以外の地域のディストリビューターとの交渉も進めるなど、さらに広がりを目指している同社。今後はスタッフの増員を行い、コンテンツ数の増加をはかる。

 

 また、アメリカでは営業機能はディストリビューターが担い、出版社は宣伝を担当するスタイルが主流なため、アメリカでの宣伝力を強化していくという。さらに、サンクチュアリ出版コンテンツの翻訳出版にも再チャレンジしたいとし、市場調査も行いながら、新たな挑戦を続けていくと意気込みをみせる。