Readin'Writin'BOOKSTORE
発売1週間で重版決定
東京・浅草田原町の書店、Readin'Writin'BOOKSTORE(以下RWB)店主、落合博氏の著書『新聞記者、本屋になる』(光文社新書)が好調だ。9月に発売して1週間で重版が決まり、自店では1カ月あまりですでに170冊売れた。同月は開店以来売上金額、冊数ともに過去最高を記録した。個人書店の先人に学び開店して5年目。個人で書店を開業しようとする人たちが、開店前に訪れる書店になっている。
【成相裕幸】
落合氏は記者職を30年以上経験。毎日新聞社でスポーツ担当論説委員まで務めたのちに早期退職し58歳のときにRWBを開業した。
子どもの頃から読書家でもなく「自分が商売をするなんてこれっぽっちも思っていなかった」落合氏が同書で「本屋を始めた理由より、僕が本屋を始めた方法を伝えることの方が意味あるのではないか」と書くように、ブックイベントに足を運び、個人書店を興した先人に経営から運営方針を聞き込み、事業計画書を練り上げ書店を興していく過程をつづった。また、定年を前に早期退職したことからセカンドキャリアを考える会社員がその後どんな人生設計をつくるかのヒントも教えてくれる。
「(『新聞記者、~』を自店に)初回50冊入れて6日ぐらいでなくなりました。さらに50冊追加して、3度目は30冊入れて。3度目はちょっと弱気になってしまいました」と屈託なく笑う。馴染みの常連はもとより「このお店で買いたかった」という人、さらに『新聞記者、~』を読んで初めて同店を訪れてみたという声もあった。
RWBは天井高4メートルの材木倉庫を改装した。畳敷きの中二階は定期的に一箱古本市もひらく場所でもある。14坪の店内は開業時300冊ほどだったが現在は5300冊が並ぶ。書籍は子どもの文化普及協会をメインに八木書店、トランスビューから仕入れる。出版社と直接取引もしている。人気が殺到するようなコミック、ベストセラーは置かない。近隣にある2つのチェーン書店で買ってくれればよい、との考え方だ。
本を自店で買ってもらうことについては強いこだわりがある。一つは立ち読みへの異議。過去にとある雑誌への寄稿で、立ち読みは「窃盗」と書いたこともある。過去に、子連れが入店するなり中二階の畳敷きスペースに置いていた絵本を取り出し30分ほどで読み終わった後に、何も言わずに店を出ていったことがある。絵本は乱雑になっていた。「いつか誰かに買っていただく本を雑に扱ってほしくない」気持ちがずっとある。
開店前に話を聞いた、京都の書店、誠光社の堀部篤史氏は「これから本は嗜好品になっていく」と言っていた。落合氏自身、本を買う側から売る側になって見えてきたことだ。
もう一つは書籍と合わせたイベントだ。当初意識的にやろうとは思っていなかったが、同業者からの勧めもありフェア展開とあわせて企画することで書籍購入にむすびつくことに気づいた。コロナ禍前、ワークショップや展示も含めると年間100回以上行った。2021年9月のある週は1週間で4回、うち土曜日には1日2回開催した。緊急事態宣言中にはイベントのオンライン配信も取り入れた。イベントをもとにした書籍化も進んでいる。
出版社と組んでのフェアは2カ月単位。これはと思う本は重点的に拡売に力を入れる。新泉社から刊行された池田賢市『学びの本質を解きほぐす』はその1冊。落合氏自身、小学生の子どもを持つ親として「学校の(不合理にみえる)論理に疑問を唱えていて説得力があり感銘を受けた」。同書に関するイベントは毎回テーマを決めて5回も行う。
コロナ禍で近隣からの来店が増加
コロナ禍を経て客層にも変化がみられた。コロナ以前は北海道、関西、福岡など遠方からの来客もあったが、最近では首都圏近郊が多くなった。RW周辺に住んでいて、テレワークで休憩がてら歩いていて初めて見つけたという人もいる。感覚的にも地元率が高くなったという。
開店する前は先達の個人書店に話を聞きにいく立場だったが、今度は本屋を開業する人が事前に来店する書店になった。名古屋のTOUTEN BOOKSTORE、東京・板橋の本屋イトマイ、東京・両国のYATOなど小規模ながらも個性ある書店の店主が訪れた。
開店前の事業プランに「流行は追いかけないが、時代の動きには敏感な場所」と書いた。「自分自身の興味があることが大前提」だが、世の動きをみるにつれBLM(ブラック・ライブズ・マター)、差別、フェミニズム、ジェンダー関連の本が大きく増えた。とくにフェミニズム、ジェンダーは開店時1冊もなかったが、今は一番店頭在庫として多い。大切なのは「変化に対応すること。日々起こるいろんな人との出会いや自分が面白いと思うものに対して、すぐに反応して一歩踏み出していく」。
ゆえに「本屋かくあるべし」といった原理原則も理想像についても「僕がいう話ではないかな。みんなが右に行くならば僕は左へ行きたい。へそ曲がりであまのじゃく」と返す。「10人の人が来て、店を出たときに10通りの感想が出る本屋がいいのではないか。逆にいえば一つの言葉ではまとめられたくない。人によっていろんな見方ができて、ひとくくりにされない本屋でありたい」。