出版社が書店から注文を受ける手段としてインターネットの「受注サイト」がある。個別出版社が独自にサイトを立ち上げているケースと、複数出版社が利用する共同サイトがいくつか存在するが、果たして利用は進んでいるのだろうか。本紙では主要な共同サイトと出版社個別のサイトを取材するとともに、出版社と書店にアンケートを実施した。
出版社が書店から注文を受ける手段は、取次会社を利用している場合は取次からの注文が大半を占めるケースが多く、そのほかにFAX、電話、訪問営業で直接、書店から注文を集めている。
今回実施したアンケート結果によると、今でも主要な注文手段はFAXである一方で、出版社、書店ともに今後増やしたい手段として受注サイトの回答が多かった。
今回取材した受注サイトは、小学館グループが運営し主要出版社が参加する「s-book」、書店のPOSデータ収集業務を行うインテージテクノスフィアが運営する「Bookインタラクティブ」、広告会社とうこう・あいが運営する「BookCellar」、小規模出版社のミシマ社が設立したカランタが運営する「一冊!取引所」。そして講談社の「Webまるこ」、KADOKAWAグループの「WebHotLine」、河出書房新社の「WINB」だ。
このほかにも個別出版社でJTBパブリッシングの「るるぶ書店の味方」、PHP研究所による「PHP Webかけはし」、デアゴスティーニ・ジャパンの「DeA Books Net」など多数存在する。
このうち、小学館、集英社、講談社(コミックスのみ)をはじめとした主要出版社43社が参加する「S―BOOK」は、登録書店数が8129軒と日本で営業している書店のほぼすべてが登録。
個別出版社のサイトながら「Webまるこ」も利用書店数が6212軒、「WebHotLine」も常に利用している書店が3000~4000軒と多くの書店が利用している。出荷冊数は2020年に1350万冊だった。
アンケートでも「s-book」は回答書店の100%、「Webまるこ」と「WebHotLine」はいずれも95・5%が利用しており、有力な注文方法として活用されている。
その一方で、今回アンケートに答えた多くの小規模出版社は、受注サイトの利用や受注サイト経由の注文がそれほど多くなっていない。そもそも受注サイトの存在を知らないというケースも多く、書店側の利用意向とのギャップも見受けられた。
書店が優先順位の高い売れ筋商品の獲得に利用しているという面もあるだろうが、複数のサイトが存在することや在庫引き当ての確実性といった利便性、そしてそもそも発注できる出版社が限られている状況も、書店が利用するサイトが偏在していることにつながっているとみられる。
取次各社が従来型の配本制度の見直しに着手し、日本出版インフラセンターによる近刊情報の整備やメディアドゥの「NetGalley」など、刊行前に出版物の情報をインターネットで書店に提供する動きが本格化する中で、こうした情報を注文に結びつけるための「受注サイト」の体制整備はますます重要になってくるだろう。
コロナ下、受注サイトの利用伸びる
受注全体の2割超える出版社も
複数出版社が参加する受注サイトでは「s-book」の利用が2021年1月で月間出庫冊数234万293冊と抜きん出て多い。小学館、集英社、白泉社といった一ツ橋グループと講談社などコミックスを刊行する主要出版社の商品を発注できるためだ。「Bookインタラクティブ」もPOSデータ収集システムというインフラを展開するインテージテクノスフィアが運営し、新潮社やNHK出版、日経BPなど主要出版社が参加しているため利用が多い。
個別出版社でみると、講談社の「Webまるこ」は利用書店が6212軒と多く、注文冊数は18年度が前年比2%増、19年度は29%増、20年度は14%増と伸び、今年度もこれまでで同41%増(11月末決算)と増加。注文全体の6~7割を占める取次会社からの出版VANに対して、「Webまるこ」経由の注文も年々比率を上げ22%に達している。
KADOKAWAグループの刊行物を注文することができる「WebHotLine」は、常にアクセスしている利用書店が3000~4000軒ほどあり、20年度は1カ月間に100万冊の受注。今年に入って月間の注文冊数が120万冊、週次で20~40万冊に達している。いまも前年同月比5~10%増で推移するなど受注数は伸びている。
同グループで最も多い取次の「出版VAN」経由の受注を除くと、「WebHotLine」経由が注文の42%を占めるまでに拡大。残りは営業担当者による受注促進が25%で、電話やFAXは数%まで減っているという。
河出書房新社の「WINB」は会員書店数が6691軒で、増加傾向にあるという。「WINB」経由の受注は全体の2%だというが今後増やしていく考えだ。
これら各社のサイトを書店が利用するためは、取次と取引をしていることが前提になる。書店側から要望のあるサイトの統合については、出版社ごとに営業方針や出荷に対する考え方があるため、難しいとする意見が多いが、「書店の利便性を考えれば、統合は実現すべき課題であると認識している」(講談社)という声もあった。
【出版社・書店アンケート】
今後増やしたい受注方法は「受注サイト」
出版社受注サイトについてのアンケートでは、出版社から83件、書店からは22件の回答を得た。回答した出版社のうち従業員1~20人が78・3%、21~50人が13・3%を占めており、主に小規模出版社の実態を反映する形になった。一方、書店は30店舗以上展開する規模が45・5%とほぼ回答の半数を占め、回答者の所属は店舗が63・6%、本部が31・8%と、チェーン店の店舗担当者の回答が多い。
受注サイトの利用については、回答した書店の95・5%とほぼすべてが利用していた一方で、出版社では利用が54・2%とほぼ半数にとどまった。規模が大きい従業員100人以上の出版社でも5社のうち3社が利用していないと回答しており、出版社は必ずしも規模による差ではないようだ。
利用しているサイトは出版社、書店ともに複数利用しているケースが多いが、出版社は無料で利用できる「BookCellar」が最も多い76・1%、次いで「一冊!取引所」が37%、「自社サイト」が19・6%、「Bookインタラクティブ」が17・4%。
書店側は「s-book」が100%、講談社の「Webまるこ」とKADOKAWAグループの「WebHotLine」がいずれも95・5%、「Bookインタラクティブ」が86・4%、河出書房新社「WINB」が45・5%。これらに続き、PHP研究所の「PHPwebかけはし」が40・9%、「一冊取引所」が31・8%、「BookCellar」が22・7%と続く。コミックスが集まる「s-book」をはじめとした大手出版社の商品を注文できるサイトほど利用が多いと言える。
受注サイト経由の注文の比率は、受注サイトを利用している出版社で「10%未満」が66・0%、「10~30%」が21・3%と30%未満が大半を占めた。書店側は「10~30%」が40・9%、「10%未満」が22・7%、「30~50%」が18・2%、「50~70%」が13・6%と、出版社に比べると高い比率だった。
出版社の受注方法で最も多いもの上位3つを聞いたところ、1番に「FAX」をあげたのが53・1%、2番目では「電話」が38・8%、3番は「電話」と「受注サイト」が同率の29・2%。今後増やしたい方法は「受注サイト」をあげたのが66・7%、「メール」が14・6%だった。
書店の受注方法では1番に「受注サイト」をあげた回答が63・6%に達し、2番に「電話」が45・5%、3番は「FAX」が40・9%。増やしたい方法は「受注サイト」が72・7%に達している。
書店が受注サイトの課題と考えていることは、「発注数がそのまま入荷するか確実ではないこと」といった確実性に対する内容がほぼ共通していた。また、受注サイトが複数あることでパスワード管理などが煩雑になっているという意見も多かった。
【取材・構成=星野渉、成相裕幸、鷲尾昴】