注目集まるKADOKAWAの「ニコニコカドカワ祭り」  アプリなど独自インフラで「書店のDX」を実現

2021年11月3日

 

ニコニコカドカワ祭り2021のサムネイル

 

 KADOKAWAが2014年10月の初開催から、全国の書店を巻き込みながら毎年行ってきたキャンペーン「ニコニコカドカワ祭り」が注目されている。「KADOKAWAアプリ」や「書店発注端末」などの独自インフラを縦横無尽に使い、「帯を使わない告知」「キャンペーン中の柔軟な追加発注対応」など、これまでにない「書店のDX」を実現する形になっているからだ。増売と返品率減少を両立させるキャンペーンの仕組みについて、KADOKAWAのデジタルマーケティング室デジタルマーケティング課課長、デジタルプロモーション課課長の楫野晋司氏に伺った。【コンテンツジャパン代表取締役・堀鉄彦】

 

増売と返品率減少を両立した仕組みを聞く

 

―「ニコニコカドカワ祭り」とは、そもそもどういう経緯で始まったんですか。
 もともとはKADOKAWAとドワンゴが経営統合した14年に始まった企画です。デジタルコンテンツのお客さんと、書籍などリアルのお客さんを相互に誘導できないかがテーマでした。

 

 当初は「ニコニコ動画」と書店をどうつなぐかという施策が多かったのですが、もっと広く考え、デジタルのプラットフォームとリアル書店をくっつける企画が展開できるんじゃないかと考え始めました。それには何が必要かということで、作ったのが「KADOKAWAアプリ」です。

 

 アプリに送客機能を持たせ、キャンペーンをやることによって、もっといろいろなことができるようになるんじゃないかと考えました。今は、さまざまなキャンペーンの起点となり、書店施策DX(デジタルトランスフォーメーション)の起点ともなっています。

 

 

キャンペーン応募方法のサムネイル

キャンペーンの応募方法

 

―スマホアプリを使うことが、キャンペーンにどう役立っているんですか。
 キャンペーンの告知から特典応募のプロセスを、すべてアプリ経由で行っているのです。これによりたとえば、書籍への「帯」装着が必要なくなりました。

 

 ご存じのように、増売キャンペーンにはこれまで「帯」の利用は必須条件だったかと思います。読者への店頭告知も、キャンペーンへの応募も、帯を通じて行うのが基本だったからです。

 

 帯はほとんどの場合、出版社で巻き、それを「キャンペーン用セット」として箱詰めし、お店に送るわけですが、アプリをつかえばその作業が必要なくなるわけです。

 

 

キャンペーンで提供のサムネイル

キャンペーンで提供する特典電子書籍の入手方法。「BOOK☆WALKER」経由で提供

 

帯を使わない増売キャンペーン

 

―流通にかかわる業務の削減につながっているのですね。
 帯を取り巻く一連の作業がなくなることの意味は大きいです。以前は、在庫の書籍を取り出し、帯を巻いたうえで発送しなければなりませんでした。アプリで告知できるようになってからは、今ある在庫を即発送できるようになったんです。

 

 キャンペーン期間中に注文を受けて、期間中に書店にお届けできるようにもなりました。帯を使わないから、店頭にある在庫をそのままキャンペーンの対象にできます。キャンペーン実施に伴う店頭在庫の入替も必要ありません。

 

―KADOKAWAの返品率低減は話題になっていますが、その背景としてアプリの存在も大きかったというわけですね。50%還元という特典もすごいです。
 増売キャンペーンの「特典」に関する作業も軽減できます。アプリを使った場合、お客さんに買っていただいたレシートを撮ってもらうだけで、ポイントが付与される仕組みです。

 

 読者還元も、昔だったら紙の図書券を送るしか手段がなかったですが、今は図書カードNEXTのネットギフトとして送れるので、全く手間がかかりません。

 

 ポイント還元比率の切り替えについても、帯やバーコードの付け替えが発生しないので、書店にも出版社にも作業がほぼ発生しないようになっています。

 

 

タブレット発注で発送作業時間を短縮

 

オンラインとオフラインの融合のサムネイル

紙と電子を融合する基盤として機能する「KADOKAWAアプリ」(2022年3月期 第1四半期決算資料より)

 

―特にタブレット端末で発注できる店舗だと、そうした一連の対応が迅速かつシームレスにできるんでしょうね。
 そうなりますね。数年前から契約書店からはタブレットを使った発注をしてもらっています。キャンペーン情報のやりとりも、そこできめ細かく行えるようになっていますし、店頭に着荷するまでにかかる時間の短縮には直結しています。

 

―紙の本を買ったら電子書籍がついてくるという施策にも取り組まれています。
 アプリを使っているので、こういう施策も自由にできるわけです。書店店頭と電子の連動もできないかということは以前から考えていましたが、それを具体化させました。
 書店さんに余計な手間をかけさせず、店頭で買うことの付加価値を提供できる仕組みにはなっていると思います。機能強化を続けて今まで以上の書店への集客増・利益還元につなげられたらいいですね。

 

書店受発注ののサムネイル

受発注の電子化で返品率は大幅に低減(2022年3月期 第1四半期決算資料より)

 

―増売キャンペーンを取り巻くさまざまな作業が大幅に軽減され、返品率の低減にもつながっているんですね。実売など、効果はどうなんでしょうか。
 昨年は、キャンペーン期間中の売り上げが2割増加との結果がでています。キャンペーンの内容が浸透してきたからか、今年は問い合わせ件数ベースで前年の4~5倍に達しています。実売ベースでも数億単位の売り上げの増加はありそうなので、最終的な結果にも期待しています。

 

キャンペーン概要と「アプリ」について

 

 「ニコニコカドカワ祭り」は、2014年から継続的に行われているキャンペーンで、今年で8回目。21年の「ニコニコカドカワ祭り」は10月1日から開催中だ。

 

 一般書店向け施策としては①KADOKAWAの本を書店で買って応募すると「図書カードNEXTネットギフト」で全員、最大50%分の還元②応募者には抽選で豪華賞品があたる③書店で対象書籍・雑誌を買うと電子書籍がもらえる―といった企画を、電子書店向けには50%割引や1巻無料提供などの企画を展開している。

 

 また「VR書店」とのタイアップで、VRゴーグルを使って次世代書店の体験ができる「本棚劇場」の全国巡回、ニコニコ生放送で異世界系アニメを一挙放送などの企画も実施中だ。

 

 キャンペーンの基盤となっているのが19年に配布開始した「KADOKAWAアプリ」だ。KADOKAWAの商品やコンテンツ、キャンペーンの情報を読者に提供するスマホアプリで、対象商品の購入レシートでポイントを、対象書店でチェックインするとマイルをためることが可能。ためたポイントを使うとキャンペーンの特典や賞品への応募が可能になる。

 

 「ニコニコカドカワ祭り2021」では「図書カードNEXTネットギフト」を使った還元施策を、このアプリを使って行った。新刊情報の配信もアプリ上で行われ、近くの書店を検索する機能、KADOKAWAグループの書籍レビューコミュニティ「読書メーター」のレビューが読めるサービスなども備わっている。