岩手日報社は11月17日、東日本大震災10年被災3県4紙記者座談会を盛岡市内のホテルで開催した。岩手日報社、河北新報社、福島民報社、福島民友新聞社の記者4人が登壇し、被災地の課題や風化を防ぎ教訓をつなぐ方策について意見を交わした。会場には約80人が参加したほか、オンラインでも配信した。
同日に盛岡市で開かれた新聞大会に併せて、開催された。登壇者は岩手日報社釜石支局長の川端章子氏、河北新報社報道部震災取材班キャップの高橋鉄男氏、福島民報社報道部副部長の鈴木仁氏、福島民友新社報道部次長の菅野篤司氏の4人。IBC岩手放送報道制作局アナウンス部長の神山浩樹氏が司会を務めた。
まず、各氏は大震災の報道を振り返った。河北の高橋氏は大震災の直前にあった「前震」について触れ、「その前震を十分な知識がないまま取材し、これから起き得る地震の危険性を書けなかった。その時の後悔が、震災10年の取材の原動力になっている」と明かした。
復興過程で見えてきた課題については、原発事故が起こった福島県の地元紙として、福島民報の鈴木氏は「帰還困難区域はまだ福島の県土の2・4%を占めており、区域内外では復興の進ちょくに差がある。一部以外は避難指示の解除の見通しはなく、時計の針は止まったまま。福島の発展の足かせになっている」と状況を説明した。
福島民友の菅野氏も「被災地の取材は、いつまでたっても変わらないものが問題で、大事になる。何が変わって、何が変わらないのか。変わらないものに、どんな問題があるかを解明することが、県民や読者のためになる」との思いを語った。
また、10年が経過し、風化に対して地元紙の役割を聞かれると、岩手日報の川端氏は「岩手県沿岸部の人口減、高齢化といった問題は全国各地の共通の課題でもある。被災地がどのような地域づくりをしていくかを発信することで、風化防止になる可能性もある。被災地では若い世代の活動も活発化している。それを報道するだけでなく、その輪が広がるような発信方法も模索したい」と話した。
さらに、新聞社内での継承も課題に挙げ、「当紙では震災後に入社した若手でプロジェクトチームを立ち上げ、『つむぐ』という企画がスタートしている」と紹介。「社内でも社外でも、どうつなげていくかが重要。それが風化防止につながるよう、震災報道を続けたい」と語った。
高橋氏も地元メディアの役割について、「震災が突きつけたテーマは多岐にわたり、複雑化している。被災3県や市町村は復興の第三者検証をできておらず、今後も地元紙が果たすべき役割は大きい」と指摘。
ただ、「復興報道」「防災報道」「災害報道」という使命を果たしていくのは「困難な道のり」とも述べ、「被災者や災害、復興システムを取材し続ける仲間を増やす努力も必要。県を越えて被災地の新聞社同士が連携できないか」などと提案した。
「次なる災害に備えるため耳を傾けて」
今後も原発事故報道は続くが、鈴木氏は「人々の意識が原発事故に向いていると風評を呼び、意識が向かなくなると風化するという懸念もある。一番恐ろしいのは、風評が固定化したまま風化することで、絶対に避けなければならない」と強調。
菅野氏も「福島を再生させるための知識を得ようと、チェルノブイリ原発事故や沖縄県なども取材した。各地に教訓があったのに、知らなかったと痛感した」と語り、「他の地域の苦難に心を寄せられなければ、自分が苦難に陥ったとき十分に動くことができない。自分の地域で起き得る災害に備えるため、被災地の声に耳を傾けてほしい」と呼びかけた。