紙と電子の大手流通が提携しNFT特典付き出版物提供
大手出版取次のトーハンと電子書籍流通最大手のメディアドゥが資本業務提携し、書店をデジタルコンテンツで支援するため、雑誌や写真集にブロックチェーン技術を使ったデジタルコンテンツ「NFT(非代替性トークン)特典」を付けた出版物の刊行を開始。これにあわせて、メディアドゥはコンテンツを取引するNFTマーケットプレイス「FanTop」のサービスを開始した。
複製が容易なデジタルコンテンツをNFTによって特定できることで、コレクションアイテムとして所有したり、交換しても追跡が可能となる。第1弾として10月に扶桑社、主婦の友社が刊行した特典付き出版物は、事前のネット予約も、発売後の店頭販売でも品切れが相次ぐなど大きな反響を呼んだ。
このほか、両社はメディアドゥの電子図書館サービス「OverDrive Japan」の公共図書館などへの導入や、書店店頭での電子書籍販売など、リアル書店とデジタルを連携させる取り組みを進めている。
コミック市場が過去最大に、6000億円を突破
出版科学研究所によると2020年のコミック市場は紙が2706億円、前年比13.4%増、電子が3420億円、同31.9%増となり、紙と電子をあわせると6126億円、同23.0%増で市場規模は調査史上最大になった。
『鬼滅の刃』の大ヒットがあった前年に続き2021年上半期も紙コミックスは同16%増、電子コミックは同25.9%増と伸長傾向は続いており、出版市場でコミックの占める割合が拡大している。
コミックアプリの普及やウェブトゥーン(縦スクロールマンガ)など新たな表現の広がりによって、移動時間などで手軽に読めるようになるとともに、コミックを読む読者層が紙版より性別、年齢とも広がるなど需要が拡大した。
コミックを発行する大手出版社の業績は好調で、紙から電子・版権ビジネスへの収益構造変化が進んでいる。この分野は海外でも需要があり、電子書店や電子取次が海外展開を進めていることから、さらに市場拡大が見込まれる。
大手取次が出版流通改革を加速
日本出版販売は返品率15%・書店マージン30%を目指す「PPIプレミアム」、需要予測で返品減少する新たな「オープンデータプラットフォーム」、配送ルールの見直しや異業種との配送相互乗り入れなどによる「オープン配送プラットフォーム」の構築など流通改革に向けた具体策を提示。その進捗を業界内外に示すため9月から3カ月おきに「出版流通改革レポート」の発表を始めた。
トーハンも実質30%の書店マージンを目指す「マーケットイン型販売契約」を開始し、「新仕入プラットフォーム」のWebシステムを開発するなど、出版流通改革に向けた取り組みを加速させている。さらに、大日本印刷(DNP)と出版流通改革に向けて全面的に提携することを発表。DNPグループが運営する書籍流通センター「SRC」をトーハンの物流拠点「桶川SCMセンター」内に設置し、出版社倉庫や印刷拠点と連携することで適時・適量の物流体制を整備することを目指す。
メディアドゥが電子から紙、海外へと事業を拡大
電子取次最大手のメディアドゥは、NFTマーケットプレイス「FanTop」の開設やトーハンとの資本業務提携、さらに光和コンピューターと提携して出版社向けにクラウドによる基幹システム「PUBNAVI」の運営など、電子出版にとどまらない事業を展開している。
また、出版レーベルを傘下に入れるインプリント事業で日本文芸社を子会社にしたほか、小説投稿サイト運営のエブリスタも買収。アメリカで出版社向けに「ネットギャリー」などを運営するファイヤーブランド・グループも傘下に入れた。
メディアドゥ・藤田恭嗣代表取締役社長CEOは決算説明会で、「当社は電子書籍のメディアドゥから出版業界のメディアドゥに進化していかなければならない。リアルの流通、書店にも貢献することを模索したい」と宣言した。
新たなアライアンスが次々に
トーハンとメディアドゥ、DNPとの提携をはじめとして、今まで見られなかった提携が相次いでいる。
講談社、集英社、小学館の出版社3社と丸紅は出版流通の新会社設立設立すると発表。「AIの活用による業務効率化事業」と「RFID活用事業」を挙げ、出版流通全体の最適化を目指すとしている。
カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)子会社でデータ分析サービスなどを提供するカタリスト・データ・パートナーズに、小学館、日販グループホールディングス、学研ホールディングス、富士山マガジンサービス、KADOKAWA、講談社、集英社、ポプラ社が第三者割当増資を引き受け出資。
来春には同社の書籍購買データ分析サービスと、日販が提供する出版社向けマーケット情報開示システムを統合すると発表した。