島本理生、辻村深月、宮部みゆき、森絵都の4人の直木賞作家と、〝小説を音楽にする〟ユニットとして話題の「YOASOBI」のコラボによる新たな読書体験が生まれる―。「はじめて〇〇したときに読む物語」をテーマに、4人の書き下ろし作品を収めた書籍『はじめての』を、水鈴社(東京都・篠原一朗代表)が2月16日に発刊する。さらに、各作品をモチーフに、YOASOBIが1年をかけて新たな楽曲を提供する「小説楽曲化プロジェクト」がスタートする。
作品は、「『私だけの所有者』―はじめて人を好きになったときに読む物語」(島本理生)▽「『ユーレイ』―はじめて家出したときに読む物語」(辻村深月)▽「『色違いのトランプ』―はじめて容疑者になったときに読む物語」(宮部みゆき)▽「『ヒカリノタネ』―はじめて告白したときに読む物語」(森絵都)。
SF、恋愛、ミステリーと、多彩な内容を楽しめる1冊に仕上がった。発刊に合わせて、まず『私だけの所有者』をもとにした楽曲が発表される。
初刷りは4万部、2月14日取次搬入。昨年12月に書店でプロジェクトの一部情報を初めて開示するなど、書店発での情報発信を重視する。
水鈴社は20年7月、篠原代表が幻冬舎や文藝春秋での編集者経験を経て設立。幻冬舎では雑誌「パピルス」編集長を担ったほか、14年に入社した文藝春秋では6年間エンターテイメント文芸を手掛け、『羊と鋼の森』(宮下奈都)や『そして、バトンは渡された』(瀬尾まいこ)などの本屋大賞受賞作を担当。
他にも、「会社で他の人があまりやっていない仕事をしよう」との思いをもとに『祐介』(尾崎世界観)、『ふたご』(藤崎彩織)といった、ミュージシャンによる注目作品を世に送り出した。
一方で、異動が多い会社で自身の将来像が見えにくくなったことや、他業種との協働やイベント開催など社員の立場では難しい取り組みも増えてきたことから、仕事の幅をさらに広げるため独立を模索。ただ、プロモーションに関するノウハウはあるものの、書籍流通などに課題を残すことから、同社の作品はすべて文藝春秋に流通と営業を委託する一方で、業務委託の編集者として同社の作品づくりにかかわり続ける契約を結んだ。
篠原代表は独立への思いについて、「業界が大きく変わる中で、大きな組織に頼らなくとも、個人として動けるようになってきた。文藝春秋には文庫化の優先契約権をお渡しするほか、文藝春秋で作る本もヒットを狙い、きちんと利益を上げていく。水鈴社は設立から1年半で4作品を世に送り出し、『夜明けのすべて』6刷4万3000部、『Mr.Children道標の詩』2刷6万部ほか重版率100%。刊行点数を絞り、戦略的に多くの人に読んでもらえる本を作り、全力でプロモーションするという腹を決めてしまえば、やっていける確信がある」という。
本の面白さを読者に届けたい
また、新作『はじめての』については、「いま、最も勢いのあるアーティストのYOASOBIと、日本を代表する作家が組んだらどんな化学反応が起きるだろうと提案した。この小説が、読書に親しみの少ない人にとって、『本の面白さを感じる初めての読書』になり、小説の読者を増やすことにつながってほしい」とし、「編集者としてのノウハウとスキル、違う業界の人との縁を生かし、時代に則して水のように自由自在に形を変えながら、SNSやゲームに引けを取らない楽しさを伝えられる本を広く読者に届けていきたい」と、出版への思いを語ってくれた。【櫻井俊宏】